紀伊半島中央部,奈良県天川村の洞川地域の鍾乳洞産哺乳類化石について,非公開部分も加えて詳細な産状・堆積物調査を実施するとともに,炭素14年代を検討した。これらの化石は,地上に連結する竪穴や裂罅等を通じて洞内に落ち込んだ中型哺乳類が,やや移動した後に死亡し骨化したと考えられる。面不動鍾乳洞産ニホンザルの大腿骨化石は9744~10119 cal BPを,五代松鍾乳洞産のイノシシの指骨化石は28140 yr BPが得られた。これらの年代値は最終氷期最寒冷期前後に相当する。紀伊半島地域における最終氷期最寒冷期を含む過去数万年の哺乳動物相の時空間的変遷を復元するに際して,これらの鍾乳洞産哺乳類化石は重要な知見を提供しうる研究対象の一つとして期待される。