抄録/ポイント:
抄録/ポイント
文献の概要を数百字程度の日本語でまとめたものです。
部分表示の続きは、JDreamⅢ(有料)でご覧頂けます。
J-GLOBALでは書誌(タイトル、著者名等)登載から半年以上経過後に表示されますが、医療系文献の場合はMyJ-GLOBALでのログインが必要です。
液-液分離における透析システムには(1)圧透析,(2)電気透析,(3)拡散透析(DD)があり,それぞれ圧力差,電位差,濃度差を駆動力とする。イオン交換膜(IEM)を使用したDDシステムは有害イオンの除去,酸・アルカリの回収などに応用されている。しかし,このシステムは濃度差を駆動力としているためイオンを移動させるための直流電力を必要としないが,電気透析と比較してイオン透過速度が遅く,膜の必要面積が大きくなるという欠点がある。DDシステムの欠点を補うために,平膜より膜モジュールの単位面積あたりの膜面積(充填密度)が約10倍高くなる中空糸型IEMの開発が求められている。そこで本研究では,主鎖に機械的強度の優れたポリスルホン(PSF),側鎖に交換基を持つp-スチレンスルホン酸エチルエステル(Etss)を有するグラフトポリマーを原子移動ラジカル重合(ATRP)により合成し,中空型IEM開発の前段階として,このグラフトポリマーから作製した膜を加水分解することにより平膜型陽イオン交換膜(CEM)を作製した。このCEMのイオン交換容量(IEC),膜含水率,機械的強度,膜抵抗,動的輸率と膜構造との関係を検討した。PSFのクロロメチル化反応によりクロロメチル(CM)基を導入し,マクロイニシエーター(MI:CM-PSF)を合成した。その結果,クロロメチル化剤(クロロメチルメチルエーテル,CMME)の添加量((C
mCMME)を調節することによりクロロメチル化率(C
PCM)の制御が可能であることが判明した。次にこのCM-PSFを用いてATRPによりグラフトポリマー(PSF-g-Etss)を合成し,このグラフトポリマーを製膜,加水分解することにより平膜型陽イオン交換膜(PSF-g-SSA)を作製した。PSF-g-SSA膜のIECおよびグラフトポリマー中のSSA含有量(C
PSSA)はCM-PSFのC
PCMとEtssの添加量(C
mEtss)の増加に伴い増加した。このことからC
PCMとC
mEtssを変化させることによりPSF-g-SSA膜のIECおよびC
PSSAは制御可能であり,ATRPにより側鎖間距離や側鎖長の異なるグラフトポリマーを合成が可能であることが判明した。C
PCM,C
mEtssの異なるPSF-g-SSA膜はIECの増加に伴い膜含水率が増加した。これは親水性基であるC
mEtssが増加することで膜が水和水を取り込みやすくなったためである。PSF-g-SSA膜に熱処理を施した結果,熱を加えることによりグラフトポリマー中のベンゼン環同士の距離が縮まり,ポリマー構造が密になり機械的強度が増加した。イオン輸送の指標となる膜抵抗,動的輸率を測定し,陽イオン交換膜としての特性評価を行った結果,低膜抵抗,高輸率の膜を作製することが可能となった。このグラフトポリマー溶液は湿式紡糸により中空糸状の膜を作製できることが予測されるため,今後,低膜抵抗,高輸率を有する中空糸型陽イオン交換膜の開発が期待できる。(著者抄録)