抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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材料中に導入される種々の構造欠陥はマトリクスとは異なる幾何学的特徴を有することから,その物性においても異質な状況を惹起することがある。しかし,ナノスケールの構造欠陥における諸物性をピンポイントで検知することは容易ではなく,その学理の構築や材料科学への展開はほとんど為されていない。本研究では,原子分解能電子顕微鏡(HAADF-STEM),低エネルギーイオン加速器結合型電子顕微鏡,電子線ホログラフィー法などの先進的なTEMを用いることにより欠陥における磁性のピンポイント解析を行う。さらに得られた知見をもとに,異質な磁性を有する欠陥を内包する強磁性体の学理(スピンテクスチャー・磁気物性)の構築,新たな機能性の創出を図る。磁性材料における欠陥(不純物,転位,界面,介在物等)は,磁壁のピン止めをはじめ,近藤効果,ホプキンソン効果など様々な現象を惹起し材料の物性に影響をもたらすことが知られている。これらの多くは磁性を持たない欠陥が動力学的な障害物として作用するケースである。一方,近年申請者らは電子線ホログラフィーを用いた研究で以下に紹介するような,マトリクスとは異なる磁性を有する逆位相界面(Anti-phase Boundary:以下APB)の存在を見出しており,基礎学理上大きな関心を集めている。(i)マトリクスより強い強磁性を示すAPB。Fe-30Al(at.%)合金中に導入されたAPBが,マトリクスより約6割強い自発磁化を帯びることを明らかにし,これがAPBでの原子配列の不規則化に伴う最隣接Fe-Fe対の増加に起因した現象であることを突き止めた。(ii)反強磁性を示すAPB。Ni
2Mn(Al,Ga)ホイスラー(L2
1)合金中のAPBにおいて,磁化がマトリクスの1割程度にまで落ち込むことを明らかにした。同合金のAPBでの不規則な原子位配列状態は反強磁性的スピン配列を安定化させるため,180°磁壁とAPBが重畳した特異な磁区構造を呈する。しかし,これまでの研究はいずれもAPB近傍での磁気情報の解析に留まっており,系統的な学理の構築や材料科学への応用はいまだ図られていない。本研究では,これまでに得られた知見をもとに転位と磁性の相関を系統的な学理体系のもと理解するとともに,材料全体に波及するようなダイナミカルな磁区構造の変調を惹起するような組織制御を行うことで新しい材料開発および物性開拓を目指す。このような目的のもと,反強磁性的なAPBを有するNi
2MnInホイスラー合金を対象にAPB密度を変えた試料を作製し磁化測定,および薄膜化した試料に対し電子線ホログラフィー観察をそれぞれ行った。その結果,高密度にAPBを導入した試料ではキュリー点TC直下にて磁化が急激に落ち込み,100K以下にて突如再上昇する挙動が観測された。さらにこの試料の電子線ホログラフィー観察の結果,温度に応じて全く異なる磁区組織を呈することが分かった。また電子線ホログラフィーによる磁壁のピンポイント解析の結果,APBに重畳している磁壁は,通常の磁壁の幅(~60nm)の約10%程度(~6nm)の幅しかなく,APBという偏狭な構造の中にトラップされていることが明らかになった。過去の先行研究より偏狭領域に閉じ込められ狭くなった磁壁は通常の磁壁よりも熱的に不安定になることが予測されるが,今回のAPB磁壁幅から見積もられるキュリー点はバルクのキュリー点よりも約10Kほど低く,電子線ホログラフィー実験で観察された磁区構造の変化する温度と良い一致を示した。すなわち,バルクのキュリー点直下で観察された磁区構造のドラスティックな変化は,APB磁壁が熱的に崩壊し重畳がほどけたことに起因することが分かった。これによりバルクのキュリー点直下では,数十ナノメートルサイズの磁区構造から数マイクロメートルに及ぶ巨大な磁区構造へと再形成することとなり,それに付随して初磁化率の急激な増大が観測された。これはAPBの高密度導入によりバルクの物性までをも変化させることが可能となったことを示す最初の例であり,新しい材料開発・機能性開拓の手法として欠陥と磁性の相互作用が有効な手段となりうることを示す結果となった。(著者抄録)