抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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日本の地域公共交通政策は,地方部や都市近郊での人口減少(過疎化・高齢化),自家用車への高い依存,公共交通の担い手不足等といった要因により,地域が求める移動ニーズに対応できていない課題がある。そのため,既存の交通サービスの改善や充実といった地域の輸送資源の十分な活用の他に,MaaS,自動運転やデマンド交通など公共交通を支える新たな技術やサービス開発及び導入によって持続可能な交通サービスを提供・確保することが求められている。そこで本調査研究では,欧州及び日本の昨今の動向を踏まえ,実効性のある交通計画の策定及び事業の実施について把握することを目指し,新たな交通サービス・技術の浸透等と連携しつつ,モビリティの高度化及び接続改善により公共交通を軸とする地域モビリティ全体の水準を高める施策のあり方について,欧州連合(EU)各地域で策定又は取組が進んでいる,「持続可能な都市モビリティ計画」“Sustainable Urban Mobility Plans”(以下“SUMP”)及び「過疎地スマート交通地域」“Smart Rural Transport Area”(以下“SMARTA”)に着目し,文献調査及びインタビュー調査を行った。本調査研究の成果の概要は以下のとおりである。持続可能な都市モビリティ計画“Sustainable Urban Mobility Plans(SUMP)”:○SUMP概況:SUMPは,都市及び近郊における市民のより良い生活や活動のためモビリティを充実させることを目的とし,地方自治体により市域内のみならず機能的な都市エリア(Functional Urban Areas:FUA)に対して策定される交通及びモビリティに関する持続可能で統合的な計画である。欧州レベルで統一されたSUMPの策定または導入義務はない。もっとも国家・地域別にみると,フランスにおける都市圏交通計画(Plans de Deplacements Urbains:PDU)や,英国における地方交通計画(Local Transport Plan:LTP)のようにSUMPに相当する計画の策定を従来から義務付ける国もある。また,ベルギーやスペインの一部ではSUMP策定の義務付けを含む法整備が進んでおり,SUMP策定件数も多くみられる。また,法律による義務付けがなくとも自発的にSUMP策定を推進する国や都市もある。また,SUMP採用に関するユーザーニーズ分析(Users’ needs analysis on SUMP take up)によると,各都市によるSUMP導入状況や内容は,国レベルでの支援体制や規制枠組みが整備されているか,また国及び地方自治体当局内の異なる部署間を横断・統合する局体制が構築できるかといった要因が影響している。SUMPの策定上の特徴として,公共交通以外を含むモビリティ全体を対象としている点がある。鉄道やバスといった既存公共交通の各モードに加え,計画によってはデマンド交通(Demand Responsive Transport:DRT),オーストリアのウィーンのように徒歩や自転車,自動車・道路・駐車場や,さらには,デンマークのコペンハーゲンのように環境対策(グリーン・モビリティ)やベルギーのブリュッセル等のように物流など幅広い施策が計画の対象となっている。○SUMP策定プロセスにおける特徴:SUMPの策定場面における,関係者の範囲をみると,市民のみならず地方議員や環境団体を含んだ幅広い関係者の参加を通じて,広い合意のもとに策定されることを重視する。SUMPにおける計画期間は,例えば,オーストリアのウィーン,ドイツのドレスデン,デンマークのコペンハーゲンでは共に,2025年やその先を見据えた目標と施策を含む計画を2013~2014年に採択していて,実際の計画の期間は10年以上であるものが多い。したがって,計画対象スコープや参加する関係者の範囲が広く,計画対象期間も長期的であるといった特徴がある。SUMP策定支援として,欧州委員会(European Comission:EC)により,SUMPの策定及び実施のためのガイドラインとして“Guidelines for developing and implementing a Sustainable Urban Mobility Plan(SUMP Guidelines)”が2013年に策定,2019年に改訂されている。また,欧州委員会が運営する欧州の都市モビリティ関係者の協議会であるEltisは情報ポータル上で,SUMPガイドラインや策定にあたってのツールを提供しており,SUMP策定に関わる都市交通・モビリティ担当者が共有する事例やノウハウの入手が可能である。EltisによるSUMPカンファレンス等のイベントも開催されている。さらに,欧州における持続可能性な都市モビリティに資する都市ネットワークへの取り組みであるCIVITASプロジェクトを通じて,SUMP策定者向けの各種教育や情報提供等といった支援が実施されている。SUMP策定上の取り組みの工夫や課題として,上位計画との連携,ドイツのドレスデンのように幅広い関係者の関与,市民参画等が挙げられる。都市における取り組みや特徴については,都市部ではデンマーク・コペンハーゲンやオーストリア・ウィーンにおけるMaaS等の新技術活用や,オーストリア・ウィーン等における自家用車,バイクのシェアリングによる公共交通との連携施策等による自家用車削減の工夫とその課題(シェアリングの詳細は後述)やカーゴバイク(荷台付き自転車)の活用がある。さらに,SUMP策定の考慮事項をみると,SUMP導入に関する支援体制は国によって異なること,SUMPの施策実施及び立案策定の際の資金援助に課題があることがみられた。...(著者抄録)