抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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我が国では,多くの地域で人口減少による地域公共交通サービスの需要減少や経営悪化,また担い手不足といった要因により,公共交通の維持確保が困難になっている。高齢者の免許返納等への対応や,社会参画を支えるモビリティの実現が強く求められており,地方都市がポストコロナの柔軟な働き方に対応する大都市からの移住の受け皿となるためにもコンパクト・プラス・ネットワーク化を目指した公共交通の再生・活性化が必要である。一方で海外の状況を見ると,公共交通政策が進んでいる欧州では,地方自治体の財政的な負担によって地域公共交通を支える仕組みが定着している。欧米の多くの地方自治体は,公共交通について経営効率化の手段を担保しつつ,社会的便益に着目し,積極的な投資を行っている。そこで本調査研究では,欧州において公共交通について経営効率化の手段を活用しつつ,社会的便益に着目して積極的な投資を行う動きに着目し,日本の事例を踏まえつつ,フランス,スイスを中心とした欧州の制度と先進的な取組について分析した。第1編では,欧州における地域公共交通を支える仕組みについて,とくに財源確保の観点で特徴のあるフランス,スイス,オーストリアの3国の制度について分析した。第2編では,都市公共交通の活性化・再生を通じたコンパクト・プラス・ネットワーク化に関する欧州の先進事例,特にLRTを軸とした都市公共交通の再編事例について着目するとともに,比較対象として,日本の路面電車を活かしたまちづくりを行っている都市から,熊本,長崎,高知の取組について取り上げる。30近い都市でLRT導入が進んだフランスでは,LRTやBRTを導入・延伸した場合に,都市自治体に対して事後評価レポートを義務づけており,本調査ではボルドーとブレストの事例を分析した。また,スウェーデンのマルメ市とオーストリアのクレムス・アン・デア・ドナウ市の取組も分析した。第3編では,地方の中小の鉄道会社が観光地へのアクセスに活用されており,鉄道の存在が地域の観光産業を支えるとともに,地元の人の生活の足にもなっているスイスの事例を取り上げるとともに,比較対象として,岩手県・宮城県の三陸地方および高知県の取組事例の分析も行った。スイスにおいては,生活路線と観光路線の両方の役割を果たしている地域鉄道路線の先進的な取組の事例として,レーティッシュ鉄道を有するグラウビュンデン州,3本の山岳鉄道の起点となっているエーグル市を中心としたシャブレー地区,ローザンヌ都市圏の3地域の取組について調査した。フランス・スイスなど欧州の事例から,日本の地域交通政策に対する示唆として,以下の4点が挙げられる。・欧州の都市・地域公共交通政策が,社会・環境・経済の持続可能性を重視していることである。特に経済の持続可能性を重視することについては,生活交通の改善を通して都市への企業立地を促すことや,観光と生活の足を両立させていたりすることにつながる。・公共交通に補助金投入をする場合には,エビデンスに基づく明確な基準とそれに基づいた仕組みを設ける必要があるということである。・公共交通に補助金投入をする場合には,その効果を,エビデンスに基づいて影響評価する必要がある。・フランス,スイスともに地域住民が参加する社会的合意形成の仕組みが導入されている点である。(著者抄録)