抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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本研究では,健康な高齢女性の衣服の着脱時の困難について,その原因を分析することとその手法を開発することを目的とした。高齢女性が構造の異なる3種類の上衣を着脱する動作を3次元動作分析で捉え,動作時間の分析を行い,官能評価の結果と合わせて検討を行った。今回の研究で得られた結果は次のようである。(1)官能評価の結果から,高齢女性では38.5%が原型に近い上衣Aを着にくいと評価しており,健常者であっても困難を感じていることが明らかとなった。これに対して,背幅を広くすることや袖下に菱形のゆとりを入れることで上衣Aの着にくさが改善されると考えられた。(2)着衣の所要時間を算出すると,上衣Cがもっとも短く,次いでB,Aの順であった。この順序は官能評価の結果と一致した。また,着衣動作の所要時間は動作が複雑かどうかを示す上肢の軌跡長とも相関がみられた。動作の所要時間は動作時間分析として作業効率などを示す指標などに用いられているが,着脱の容易さを示す指標としても利用できると考えられた。さらに,内容ごとに区切って所要時間を算出し,構造の異なる衣服間で比較することによって,どのような動作で着衣の問題が生じるのかを明らかにすることができた。これは動作全体の時間の比較ではあいまいであった着脱の問題点を明らかにする新しい手法となるといえる。(3)着衣時のどのような動作で問題が生じているのかを明らかにするため,着衣動作を内容で区切り,所要時間を算出した。その結果,上衣Bの‘フェーズ3:後の腕を通すための準備時間’がAに比べて有意に短かった。さらに腕の軌跡の観察から,原型に近い上衣Aではフェーズ3の軌跡が複雑になっているのに対し,背幅の広がるBではスムースな動きであることが分かった。このことから,Bでは背中のプリーツが広がるため,後に通す袖ぐりを前方に引っ張ることができて手首が袖ぐりに届きやすい。これに対して,Aは背幅の寸法が比較的狭く一定であるため,後から通す袖ぐりに手首が届きにくいと考えられた。背幅が狭い場合に手首を袖ぐりに入れることが困難であることが高齢女性の着衣の問題を生じているのではないかと推察された。(4)高齢女性では上衣Cの‘フェーズ4:後の袖に腕を通す時間’が,A,Bに比べ有意に短かった。...(著者抄録)