抄録/ポイント:
抄録/ポイント
文献の概要を数百字程度の日本語でまとめたものです。
部分表示の続きは、JDreamⅢ(有料)でご覧頂けます。
J-GLOBALでは書誌(タイトル、著者名等)登載から半年以上経過後に表示されますが、医療系文献の場合はMyJ-GLOBALでのログインが必要です。
気候変動が現在および将来においてマラリアに及ぼす影響は,公衆衛生上の大きな関心事となっている。全球的な気温上昇が,将来のマラリア蔓延と深刻化および現在のマラリアの罹患率と死亡率に及ぼすと考えられている影響は,世界的な保健政策を大きく動かす。熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)の現在の分布限界とこの域内での風土病性を,過去の同様な地図と比較することで,前世紀中のマラリアの全球的疫学特性の変化について独自の考察が得られる。マラリアの分布域が1世紀にわたる経済発展と疾患制圧によって縮小したことは,既に知られている。今回我々は,この分布域縮小と,1900年ごろから後のマラリアの風土病性の世界的低減を初めて定量化した。さらに,こうした変化の大きさを,将来の気候シナリオ下で想定されるマラリアの風土病性への影響の大きさ,およびそれを広く用いられる公衆衛生的介入と関連させた場合とを比較した。得られた知見は,気候変動とマラリアに関して,重要だがしばしば無視されてきた2つの影響をもつ。第一に,平均気温の上昇が既にマラリアの罹患率および死亡率の世界的な上昇をもたらしているとする,広く認められている主張は,その風土病性と流行の地理的範囲の両方で観察されている世界的減少傾向とおおむね一致しない。第二に,気温上昇が風土病性に将来及ぼすと考えられている影響は,1900年ごろからみられてきた変化より少なくとも1桁小さく,重要な制圧策を効果的に拡大させることで達成可能な変化より最大で2桁小さい。温暖化した世界ではマラリア感染が拡大するという,実証的関連性または生物学的機序の外挿に基づく予測は,温暖化が続いたこの100年間にもマラリアが世界的に著しく減少したという実情や,マラリアの風土病性と気候との全球的な相関性がかなり弱まっていることと,相いれないものだと考えるべきだろう。Copyright Nature Publishing Group 2010