抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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本研究は,暖温帯常緑広葉樹の分布上限決定機構を検討するために,暖温帯常緑広葉樹林と冷温帯落葉広葉樹林の植生帯境界域において,アカガシの冬季の光合成速度および光阻害を受ける度合いが,標高の上昇による気温の低下や光環境の変化によって,どのように変化するのかを明らかにした。分布の中心である標高600mの常緑広葉樹林,分布上限の標高1000mの落葉広葉樹林およびその中間の標高800mの3標高において,それぞれ林内と林外にポットを設置し,そこで発芽したアカガシの当年生実生を用いて測定を行った。冬季(1月)の最大光合成速度(A
max)は,全標高の林外と標高1000mの林内ではほぼ0となった。それに対し,標高600mの林内では,冬季のA
maxは秋季(10~12月)と同程度に維持されていた。結果として,林内についてみてみると,冬季のA
maxは,標高の上昇に伴い低下することになった。1月のA
maxと2月の葉内CO
2-光合成曲線の結果から算出した最大炭酸同化速度(Vc
max),最大電子伝達速度(J
max)および飽和CO
2濃度時の光合成速度は,林内に比べ,林外で一様に低い値を示した。林内では,これらの値は,標高の上昇に伴い低下した。光阻害の度合いを指標する最大量子収率(Fv/Fm)は,冬季には林外と標高1000mの林内で著しく低く,冬季の光合成速度の低下は,光阻害に強く関係することが示された。ただし,標高800mの林内では,冬季にもFv/Fmは高く維持されていたことから,ここでは,冬季の気温の低下によるVc
maxやJ
maxの低下が光合成速度の低下をもたらしていることが示された。以上のことから,アカガシ当年生実生の冬季の光合成の低下は,まず標高の上昇に伴う気温の低下によって,さらに分布上限では,林冠の落葉樹が冬季に落葉し,光強度が増すことによって,光阻害を受けるために,さらなる低下がもたらされていることが示唆された。(著者抄録)