抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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アジア大陸からの広域大気汚染は,海を介して大陸に面した離島や山岳地域の大気環境に直接的な影響を及ぼしている。汚染源から放出されたNOxやSO
2は,輸送されている間に硝酸ガスやオゾン(O
3),あるいは硫酸塩エアロゾル(SO
42-)等に変化して日本に到達する。O
3濃度やSO
42-を主体とした酸性エアロゾルの負荷量は,大陸からの季節風の強い冬期から春期にかけて高まり,夏期にも風向きによっては一時的な濃度の上昇が観測されている。屋久島における長期観測の結果は,冬期のSO
42-負荷によって土壌や植物体表面からの溶脱が促進されていることを示している。本州・中部山岳地域の立山でも,SO
42-濃度の高い強い酸性霧の発生には,中長距離輸送されてくる汚染物質が影響している。また,弱い黄砂である「バックグラウンド黄砂」の影響も,夏期や秋期に検出されている。大気汚染濃度の日変動について詳細に後方流跡線解析を行った結果,いずれの地点でも大陸からの気団の影響下で汚染濃度は高くなり,広域大気汚染の影響が明らかである。立山ではO
3に加えて100μM以上の高濃度な過酸化水素(H
2O
2)を含んだ酸性霧が度々観測されており,葉の光合成蒸散機能にO
3ストレスと類似した影響を与えている可能性が高い。日本の森林には,大気汚染に対して異なった感受性を持った様々な樹種が生育しているため,大気汚染ストレスに弱い樹種から強い樹種への樹種交代が促進されている可能性が示ある。野外で実際に植物に負荷される大気汚染物質の量は風向きや微地形の影響を強く受け,植物表面では化学的・生理学的反応が活発に進行しているため,現場における環境化学的過程の評価が必要となる。多様な影響を与える広域大気汚染の森林生態系への影響を評価するためには,地球上には人為的な大気汚染影響を受けていない場所は存在しないという前提で,大気環境影響を考慮した植物動態のモニタリングや解析手法を開発していくことが重要であろう。(著者抄録)