ナレッジ・マネジメントとは,イノベーションに有効な知識の創造や,その組織内への移転,活用であるとされる。このような経営管理に応えるために,近年,状況論における「実践共同体(communities of practice(CoPs)」の概念が注目されている。本論文では,状況論の有した含意を踏まえてナレッジ・マネジメントについて再考した。具体的には,Wengerの「意味交渉(negotiation of meanings)」の概念枠組や,知識を他者や人工物との関係の下で読み解く現象学的アプローチを手がかりに,製薬会社で実施された「知識移転プロジェクト」の分析を通じ,従来とは異なる「知識」を通じたマネジメントの可能性を明らかにした。