抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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奥入瀬渓流とは,青森県十和田市と秋田県鹿角郡小坂町にまたがる十和田湖を源流とする奥入瀬川(全長約71キロ)のうち,湖畔の子ノ口(標高約400m)から焼山(標高約200m)までの約14キロ区間を指す(図1)。渓流の水量は,十和田湖からの流量の安定性,流域の森林の水源涵養機能によって,古来,四季を通じてほぼ一定に保たれてきた。1943年以降は東北電力十和田発電所による放流量制限を受け,夜間および冬季には減水することはあるが,年間を通して安定的な水量が渓流に供給されている。そのため,渓流中の岩にはアオハイゴケ,タニゴケ,ミズシダゴケ,ホソホウオウゴケ,フジウロコゴケ,マルバハネゴケ,コアミメヒシャクゴケ,タカネミゾゴケなどのコケ植物のほか,草本類,木本類が流されることなく定着している(図2)。このように渓流中の石の上にコケ植物から木本類まで,多様な植物がバランスよく共存する風景は奥入瀬渓流を代表する景観の一つとなっている。遊歩道沿いに散在する岩にはエビゴケ,コツボゴケ,トヤマシノブゴケ,オオトラノオゴケなどが,倒木や橋の欄干にはクサゴケ,シワラッコゴケ,コフサゴケ,ミヤマリュウビゴケ,ツツソロイゴケなどがそれらの基物を覆い尽くしている。渓流域にはブナ林,トチノキ-サワグルミ林,ケヤマハンノキ林の3つの群落タイプが報告されており(Kikuchi 1968),林内の樹木の樹幹にはオオギボウシゴケモドキ,エゾイトゴケ,キヌイトゴケ,アツブサゴケ,オオクラマゴケモドキ,ケクラマゴケモドキ,ハイハネゴケ,ヤマトコミミゴケ,基部にはアオモリサナダゴケなどが着生している。渓流沿いには遊歩道が設けられているため,高低差の少ない安全な遊歩道でコケ植物をゆっくりと観察することができ,他の東北のブナ林と比べてもアクセスにたいへん恵まれた地域である。奥入瀬渓流では流水中の岩石上をはじめ,林床の朽木,樹幹,岩石上の多種多様なコケ植物群落を満遍なく見ることができる(図3,図4)。(著者抄録)