抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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現在も進む生物多様性の喪失に対して科学が如何にして貢献できるのかは,保全科学にとって重要な問いである。科学が生物多様性の保全に貢献するためには,データを集積し,そこから科学的知見を得て,その知見を現場で活用するという情報利用の過程を経る。しかしこの過程にはいくつもの「ギャップ」が存在し,保全に対して科学が貢献する際の大きな障壁となっている。本稿では保全科学が直面する情報のギャップの特性と解決策について議論する。例えば,研究に利用できる一次データの量は,場所や年代,分類群,データの種類によって大きく異なる。これはデータ収集の対象が,保全上の需要のみならず,データの取得し易さ,基礎科学的な動機,地理的・社会的な制約などその他の要因によっても決定されることに起因する。一方,研究の成果が保全の現場で活用されないという研究-実務間ギャップの存在もよく知られている。これは研究が提供する知見と現場が必要とする知見が異なること,保全活動や政策の関係者にとって科学的情報がアクセスしにくいことなどが原因であると考えられる。本稿ではさらにこれらのギャップを克服するための三つのアプローチを紹介する。まず一つ目は,利用できる一次データの底上げを図る試みである。次に,限られた情報からモデリングによって有用な知見を得ようとする試みを紹介する。最後に,保全活動や政策の現場がどのような知見を必要とし,科学者がどうやって成果を提供できるのかを理解することも重要である。これら三つのアプローチについて具体的な事例も取り上げながら,今後保全科学における情報のギャップを解消していくために必要な取組みについて議論を行う。(著者抄録)