抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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本調査では,国立公園内での家畜遊牧について,野生動物との資源と空間利用における競合,あるいは共有の実態を把握し評価することを目的とした。対象はインド・ジャンムーカシミール州のラダック管区ルプシュ地方を年間遊牧するルプシュ・チャンパ(以下「ルプシュパ」)と,ルプシュ地方のツォ・カル湖周辺域に生息するチベットノロバ(以下「キャン」)(Equus kiang kiang)を対象とした。調査方法は2010~2013年の春期,繁殖期,夏期,秋期,冬期における,チャンパへの聞取り調査,キャンの定点観察及び追跡調査法等により,ルプシュパの遊牧移動方法と,ツォ・カル湖周辺域の繁殖期・非繁殖期における放牧域とキャンの分布域の重複状況を分析した。その結果,ルプシュパとキャンのツォ・カル湖周辺域での利用状況は,冬期~春期のキャンの分布は乾燥域を中心とし,また放牧家畜は植物量の多い湿地部~乾燥域とに棲み分けていた。また繁殖期にキャンはツォ・カル湖周辺平坦域に複数の縄張りを展開するが,放牧家畜は同周辺域を去り,地理的に隔たった他の谷間やより高地を利用しており,繁殖期における互いの空間的侵害は回避されていた。さらに,夏期(8月)のツォ・カル湖周辺平坦域の非放牧期間とキャンの非分布期間の重なりは,湿地を含む越冬放牧地の休閑期を作りだしていた。ルプシュパの遊牧方法には,食草を維持するために集約利用を避ける頻度の高い放牧地間移動のみならず,1.)ルプシュパ内グループ別移動による放牧地利用の時間的地理的なずらし,2.)冬期~春期の,キャンとの重複利用地区での空間的ずらし,さらには3.)キャンの繁殖期と夏期(6月~9月)の不在によるずらし,といった複数のずらし機能が確認できた。このような幾つものずらしが,野生動物や植物への侵害や負荷を軽減させ,ツォ・カル湖周辺域に生息するキャンとの相互的土地利用を可能にする要因であると考えられた。(著者抄録)