抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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パリ協定が採択された瞬間,歓喜の渦に包まれたCOP21会場にあって,筆者はどうしてもそれほどに楽観的にはなれなかった。パリ協定はいわゆる2°C目標という長期目標を共有したうえで,各国の貢献については各国の自主的な設定を認める。「ハイブリッドアプローチ」とも評されるこの仕組みは,これからのルール設計の過程でトップダウンアプローチの色合いが濃くなれば各国の離脱(協定からの明示的な離脱のみならず,達成に向けた努力の静かなる放棄も含む)を招くであろうし,自主性を過剰に認め公平かつ実効性ある対策努力が引き出せなくなれば,温暖化対策が進まない。そもそも協定の条文に書き込まれた2°C目標は政治的に生まれ,徐々に気候変動交渉の世界の「常識」として定着したものである。さらに,その2°C目標を達成するためには,気候感度の前提の置き方次第で様々な道筋があり得るが,わかりやすい単一な数字が「守るべき予算」として独り歩きしている。本来は最新の科学的知見に基づいて国際的枠組みが議論されるべきであるが,一旦独り歩きをし始めた数字について科学的根拠を問う議論は,「厳しめに考えておいたほうが良い」というナイーブな声の前にかき消されがちである。しかし我々の目標に近づくパスは多様に存在することを前提に議論しなければ,パリ協定の仕組みそのものを瓦解させてしまいかねない。温暖化対策至上主義に陥ることは,温暖化対策を進める上で決して得策ではない。パリ協定の構造と2°C目標,それを達成するために必要とされるカーボンバジェット残り1,000Gtを整理したうえで,現在のUNFCCCでの議論を概観する。(著者抄録)