抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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トランプ大統領は正式にパリ協定を離脱する旨を国連に通告したが,投資家がESG投資への関心を高め,エンゲージメント,ダイベストメントという形で低炭素化社会への移行を促す動きに陰りはみえない。そんな中で最近,天然ガスの座礁資産化を警告する論が台頭してきている。環境性が高いとされる天然ガスではあるが,それは石炭や石油との比較においての話でしかない。パリ協定が掲げた長期目標達成のためには,天然ガス関連施設も遠からずお蔵入りさせねばならない(発電設備については,バイオガスを代替燃料として利用することも言及されている)というのが「天然ガス座礁資産化論」の指摘だ。燃焼時にCO
2を排出することが理由で石炭関連産業からのダイベストメントを主張するのであれば,天然ガスと石炭はまさに五十歩百歩。これまで石炭だけを悪者としてきた議論がバランスを欠いていたのであり,こうした論が出てくることは当然の流れであろう。参照シナリオによって座礁資産の定義は変わるのであり,これは企業が「気候変動関連リスク」の情報開示をするにあたっての課題の一つともなっている。そして石炭も天然ガスも,IEA(国際エネルギー機関)の予測等を参照すれば,今後も途上国の経済発展を支えるエネルギー源であると考えられている。それらが近い将来座礁資産と化すとの論は果たして現実的なのであろうか。可能性は無視すべきではないが,確率の問題を無視した議論になっているという懸念は指摘せざるを得ない。これまでこの連載でも繰り返し指摘してきた通り,気候変動による企業の財務・金融リスクの情報開示は,いわば理念先行,議論が未成熟であることは確かだ。しかし,そうした情報開示を企業に求める動きがこれまで以上に活発になっていることは指摘しておきたい。具体的には,オイルメジャーなど複数の会社が今年の株主総会において,2°Cシナリオを前提とした各社の事業見通し,長期ポートフォリオの評価を行うことを求められ,決議されているのだ。今後彼らは,2°Cシナリオを前提に個社の事業見通しや長期ポートフォリオを分析し,財務・金融リスク情報を開示することになるわけだが,2°Cシナリオというグローバルでマクロなシナリオと企業の活動を整合的に分析しうるのかが注目される。企業の気候関連財務ディスクロージャーを求める動きとその課題,7月15日に公表された「気候関連財務ディスクロージャータスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures,TCFD)の最終報告書等を整理し,企業活動に大きな影響を与えうるこの議論の動向を占う。(著者抄録)