抄録/ポイント：
抄録/ポイント
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エクアドルは,2007年にYaqsuni-ITTイニシアティブを開始した。これは直接または環境サービスに対する金銭的補償を条件として,国立公園で石油を生産しないことを国際的に提案した革新的な国家開発策であるが,2013年に大統領は取消を発表した。本研究の目的は,産油国である同国における石油の非生産への補償を,種々のアクターがどのように理解しているかを調査することによりその経緯を考察することである。そのために,イニシアティブを時系列的にレビューすると共に,重要な関係者多数との掘り下げた面談を行った。その結果から,同国の憲法に謳われているsumak kawsay(非重商主義価値観に基づく生活哲学で,調和のとれた幸福な生活を意味する)と逆成長に触発されたイニシアティブを巡る‘環境叙述’を分析した。その結果,本イニシアティブを石油の利益への依存の問題としてではなく環境問題として理解すると,開発に代わる理念を表す標語,sumak kawsayと逆成長の限界が明らかになると,著者は考えた。大統領はイニシアティブは保全よりも開発であると述べているが,石油の非生産への補償というのは国立公園の環境サービスに対するものではなく,直接の支払いによる石油自身の脱商品化である。イニシアティブは,自然を資本主義的価値づけプロセスから切り離すかわりに,それを再現し自然を商品化することになったのである。資本依存性や利益を基本において石油抽出ベースの開発から脱皮する課題を考えると,それは資本再生産の代謝プロセスから石油を切り離すことである。イニシアティブは石油の非生産への支払いと環境サービスからの補償が区別できず,石油の利益を他に置換する取組みをしないで,何を生産し何を生産しないかを社会的に決定する機会を失った。
