抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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農法及び景観が水田における土着天敵の個体数に及ぼす影響を解明するため,栃木県塩谷郡塩谷町の環境保全型水田(殺虫剤不使用)と慣行栽培水田において,クモ類を対象に調査を行った。農法及び景観がクモ類の主要4分類群の個体数に及ぼす影響を,一般化線形モデル(GLM)によって解析した。その結果,環境保全型農法は4分類群全てに対して正の効果を示した。一方,景観の影響は分類群によって異なり,周囲200m以内の森林被覆面積が,アシナガグモ属とコモリグモ科に対しては正の効果を,コサラグモ類に対しては負の効果を示し,アゴブトグモ属には効果がなかった。また,全国スケールで,水田のクモ類(アシナガグモ属及びコモリグモ科)の地理的傾向を調査・解析した。2群のクモの種組成は,緯度勾配に沿って明瞭な変化を示した。一方,個体数の傾向は2群間で異なり,本州から九州の範囲において,アシナガグモ属は北方ほど個体数が多い傾向を示したのに対し,コモリグモ科は明らかな傾向がなかった。アシナガグモ属の個体数に及ぼす気象条件及び景観の影響を,GLMによって解析した結果,年平均気温が負の影響を,夏季降水量及び周囲500m以内の森林被覆割合が正の影響を与えることが明らかになった。さらに,奈良県の露地ナス圃場において,栽培管理及び圃場周囲の景観が重要土着天敵であるヒメハナカメムシ類の個体数に及ぼす影響を,GLMによって解析した。その結果,圃場の中心から半径200m以内に,森林が少なく市街地と耕作地が多い圃場ほど,ヒメハナカメムシ類の個体数が多いことが明らかになった。得られた結果は,土着天敵の種組成や個体数に対して,農法と共に気象条件や景観等の周辺環境が大きな影響を及ぼすこと,そのために土着天敵に対する環境保全型農業の効果が周辺環境によって異なることを示している。したがって,土着天敵の害虫抑制機能を活用する際には,圃場の管理法だけでなく,周辺の環境が天敵の生息や増殖に適した条件であるかどうかも検討する必要があると考えられる。(著者抄録)