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J-GLOBAL ID:201802241398348926   整理番号:18A1418223

海外直接投資と環境技術の国際移転を考慮した国境炭素調整措置に関する理論研究

A Theoretical Investigation on Border Carbon Adjustments under FDI with Technology Transfer
著者 (2件):
資料名:
号: 32  ページ: 297-304  発行年: 2018年06月 
JST資料番号: L5491A  ISSN: 0919-3383  資料種別: 逐次刊行物 (A)
記事区分: 短報  発行国: 日本 (JPN)  言語: 日本語 (JA)
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地球温暖化対策に関わる重要な問題の一つは,国家間で温暖化ガス排出規制の程度が異なる点にある。先進国の中には排出枠取引制度や炭素税などの導入に積極的な国が多い反面,新興国や途上国の中には経済成長を優先する目的から温暖化ガス排出の抑制に消極的な国が多い。このように国家間で温暖化対策が異なると,排出規制の厳しい国の産業は規制の弱い国の産業に比べて不利な条件のもとでの国際競争を強いられることになる。また,企業がグローバルに生産国を選択できる今日では,規制の厳しい国から弱い国へ産業が国際移転し,その帰結として規制の厳しい国から弱い国へ温暖化ガス排出も国際移動するという現象,いわゆるカーボン・リーケージ(炭素漏れ)が発生する可能性も指摘されている。こうしたカーボン・リーケージの防止策として先進国では国境炭素調整措置が提案されてきた。国境炭素調整措置とは,温暖化対策の程度が異なる国の間で国際貿易が行われる場合に,貿易される財の国際的な生産費用格差のうち温暖化ガス排出規制の違いによって発生する部分を関税等の手段により調整する措置である。例えば,炭素税を導入している先進国と炭素税を導入していない途上国の間での鉄鋼製品の貿易を考えよう。先進国の鉄鋼メーカーは製品の生産過程で発生した温暖化ガス排出量に応じて炭素税を負担するが,途上国の鉄鋼メーカーは生産過程でいくら温暖化ガスを排出しても,それに伴う税を負担しなくてよい。この両国が鉄鋼製品を国際貿易すると,炭素税の負担を強いられる先進国の鉄鋼メーカーは負担のない途上国の鉄鋼メーカーに比べ,国際競争で不利な立場に立たされることになる。先進国メーカーは税負担を製品価格に転嫁すれば,途上国メーカーの製品に比べて価格競争で不利になるし,そうした状況を回避するために,税負担を価格に転嫁しなければその分だけ利益が減少するであろう。先進国による国境炭素調整措置は,途上国から輸入される鉄鋼製品に対して,その生産過程で発生する温暖化ガス排出量に応じて輸入炭素関税を課すと同時に,先進国から途上国へ輸出される鉄鋼製品に関しては,炭素税を還付することで税負担を平準化する措置である。本研究では,企業が海外直接投資を通じて海外へ生産拠点を移転することが可能な場合に,国境炭素調整措置が企業の国際生産移転やそれに伴うカーボン・リーケージ(炭素漏れ)へどのような影響を及ぼすのかを理論的に検討した。先行研究との大きな違いの一つは,企業が直接投資を通じて技術も国際移転することを明示的に考慮して分析を行ったことにある。先進国と途上国の企業はともに製品の生産過程で温暖化ガスを排出するが,先進国の企業は途上国の企業に比べて環境面で優れた技術を保有していると想定する。さらに先進国企業は温暖化ガス排出量のより少ないクリーンな技術を導入するか,それとも温暖化ガス排出量の大きいダーティーな技術を利用するか選択可能であるとする。ただし,排出量の小さいクリーンな技術の導入にはダーティーな技術に比べてより大きな固定費用がかかるため,技術導入に向けたインセンティブがなければ先進国企業はダーティーな技術を利用することになる。本研究では,先進国企業に温暖化ガス排出削減技術の導入を促すインセンティブとして炭素税(温暖化ガス排出税)を考え,先進国による国境炭素調整措置の導入が先進国企業の途上国に対する海外直接投資と国際技術移転に及ぼす影響を検討し,さらには先進国と途上国の温暖化ガス排出量への帰結についても詳細に考察した。本研究の主要な成果は次の通りである。先進国が国境炭素調整措置を導入しない場合には,先進国の炭素税率の引き上げはクリーンな技術を利用する先進国企業のみに炭素税負担を強いることで,途上国企業の生産量や排出量を拡大させ,その結果として先進国と途上国の総排出量が増加してしまう。また,さらなる炭素税率の引き上げは先進国企業による炭素税回避のための直接投資を誘発し,先進国から途上国へのカーボン・リーケージが生じることで総排出量の更なる拡大を招く危険性がある。先進国による国境炭素調整措置の実施は,炭素税率格差による先進国から途上国への直接投資による生産移転を阻止することはできないが,そうした生産移転に伴って先進国から途上国へのクリーンな技術の移転を促すことがわかった。さらに,先進国の炭素税率の上昇は,先進国と途上国の総排出量を必ず減少させると同時に,先進国からの途上国へのクリーンな技術を伴った直接投資を誘発しても,その帰結として温暖化ガスの総排出量は減少することも明らかになった。このような結果から,先進国が同程度の温暖化対策を途上国に求めることができず,企業がグローバルに最適生産国を選ぶ現代において,国境炭素調整措置は地球規模での温暖化ガス排出量の削減に資する可能性があるとの結論が導かれた。(著者抄録)
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分類 (2件):
分類
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環境問題  ,  大気管理 
引用文献 (2件):
  • Bohringer, C, J. C. Carborne, and T. F. Rutherford (2016) ′′The Strategic Value of Carbon Tariffs,′′ American Economic Journal, Economic Policy, 8 (1) 28-51.
  • Nordhaus, W. (2015) ′′Climate Clubs: Overcoming Free-riding in International Climate Policy,′′ American Economic Review, 105 (4) 1339-1370.

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