抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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交通流の諸現象は,多数の人間が自分の意思に従い思考しながら運転する車両集団の振る舞いにより引き起こされる。ほとんどの運転手はできるだけ早く目的地に到達したいという意思を持っており,自ら渋滞を起こしたいとは思っていないが,どのような道路であっても車両数(車両密度)が増大するにつれて渋滞が発生する。交通流は渋滞-非渋滞相転移現象に代表される物理学的性質を持つのである。渋滞-非渋滞相転移現象など交通流の物理学的研究が盛んになる契機を作ったのは,1992年に発表されたNagelとSchreckenbergによるセルオートマトンモデル(NaSchモデル)である。これは制限速度(最大速度)のある1車線道路上で車両の運動を追跡する,離散化された交通流モデルであり,渋滞-非渋滞相転移を再現することが数値シミュレーションにより示されている。ところで,Kernerは2000年頃に,交通流の相転移現象を渋滞-非渋滞という2相ではなく,自由流・シンクロ流・渋滞流の異なる3相に分類した。それぞれ,交通流に含まれる車両集団について次のように記述できる。・自由流:車両が希望する速度で走ることができる状態。・シンクロ流:車両が厳密に,あるいはほとんど同じ速度で走る状態。・渋滞流:停止している車両が存在している状態。この3相で交通流を分類するKernerの理論は三相交通理論と呼ばれる。シンクロ流を再現するモデルはいくつか提唱されてきたが,それらは複雑な規則を含むものであり,シンクロ流の生じる本質的な機構は完全には明らかにされていない。このような状況の下,Chmuraらはシンクロ流を再現する単純で確率的なセルオートマトンモデル(mNaSchモデル)を提案した。このモデルは,交通流の各車両が互いに衝突しないように,(a)車間距離が広がれば許容される速度を増大し,(b)車間距離が狭まれば速度を落とす,このような速度基準(安全速度)を各車両が知っているという,現実の交通流における自然な規則を取り入れたものである。mNaSchモデルでは,ある1つの関数形で与えられる安全速度が取り扱われている。さて,安全速度の選択は一意ではなく,シンクロ流を再現する安全速度のユニバーサルな特徴は明らかにされていない。そこで,本研究では「車間距離に対して運転手に許容される速度の上限値」が「mNaSchモデルの速度の上限値」よりも小さい2種類の関数形の安全速度を提示し,それを取り込んだモデルに対して数値解析を行った。本論文では,これらの変形されたモデルをgradual-NaSchモデルと呼ぶことにする。まず,この変形の下で各車両が衝突する可能性があるため,任意の最大速度に対して各車両が衝突しないことを確認した。そして,新たに導入したgradual-NaSchモデルはmNaSchモデルと同様に自由流・シンクロ流・渋滞流の間の相転移現象を再現することが示された。数値計算の結果について要約すると,gradual-NaSchモデルには元のmNaSchモデルと比較して以下のような特徴がある。・車両速度が小さくなる傾向がある。・平均速度に比例する交通流率が小さくなるという傾向が示される。車間距離に対してgradual-NaSchモデルにおける速度の上限値はmNaSchモデルに比べて小さいからである。今後は,安全速度の関数形がmNaSchモデルよりも急な傾きの関数で与えられる場合に関してもシンクロ流が生じるか等を調べる必要があるであろう。(著者抄録)