抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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量子もつれ(エンタングルメント)は量子力学においてよく現れる現象で,古典力学では説明できない相関を与える。これは量子力学において状態の重ね合わせができることに由来している。有名な例はアインシュタイン,ポドルスキー,ローゼン(EPR)のパラドックスの説明に使われる,スピン↑,↓を取りうる2粒子A,Bの状態|ψ〉=(|↑〉<sub>A</sub>|↓〉<sub>B</sub>+|↓〉<sub>A</sub>|↑〉<sub>B</sub>)/√<span style=text-decoration:overline>2</span>であろう。AとBが遠く離れている場合,Aのスピンが観測で確定した瞬間に遠方のBのスピンも決まることになる。この相関は,|ψ〉がAの状態とBの状態の単純なテンソル積で表せないことに依拠している。物性理論や素粒子理論で主に扱う量子多体系は(格子化された)空間の1点1点にスピンなどの粒子状態が付与されている。上と同様にして,空間を2つの部分A,Bに分けたときに,全系の状態が部分系Aの状態と部分系Bの状態のテンソル積で書けるか否か?でAとBの間のエンタングルメントの有無がわかる。エンタングルメントについてその有無だけではなく,全系の状態が部分系のテンソル積状態からどの程度外れているかを定量化する物理量として,エンタングルメントエントロピーがある。局所相互作用する系の基底状態では,通常エンタングルメントエントロピーはAとBの境界の面積に比例し,面積則と呼ばれている。AとBの相関を与える局所相互作用は境界上に存在することから,ギャップのある系では相関長が有限で面積則が成り立つ。他方,ギャップのない臨界系では面積則の破れが見られるが,20年以上にわたり,その破れはせいぜい部分系のサイズのlog程度で増大すると信じられてきた。最近,MovassaghとShorにより,(基底状態が)厳密に解ける1次元量子スピン系でこの信念を打ち破るものが発見された。その模型(Motzkinスピン鎖模型)のハミルトニアンは最近接相互作用から成るが,エンタングルメントエントロピーが部分系のサイズの平方根で増大し,logに比べてはるかに大きな面積則の破れを示す。彼らはこれを「超臨界エンタングルメント」と呼んだ。格子サイト当たりの自由度はスピン1のアップ,ダウン,ゼロにカラー(色)と呼ばれる自由度(k=1,2,...,s)をアップスピンおよびダウンスピンに付加したものである。つまり,s種類のアップ,ダウンの自由度がある。ハミルトニアンには,同色のアップスピン,ダウンスピンの対をエネルギー的に有利にする項があり,これが超臨界エンタングルメントに重要である。以降,これらの模型の拡張・変形が進められ,部分系の体積に比例するエンタングルメントエントロピーを示す模型も構築されている。筆者を含むグループは,この種の模型のスピン自由度を行列的な自由度に拡張した。これによりスピン配位に関し連結/非連結の概念を導入することができ,励起状態において局所化現象を見い出した。また,相関関数の計算も行われており,連結2点相関関数が遠方でも非零で残り,クラスター分解性を破ることが指摘されている。このことから,局所相互作用項から成るハミルトニアンおよびラグランジアンで定義される場の量子論であっても,真空のエンタングルメントが強い場合は,場の量子論で通常満たすべき性質と考えられてきたクラスター分解性が破れる可能性が示唆される。実際にそのような場の理論を構成することや,繰り込み群や普遍性などの概念の適用可能性を調べることは量子場の理論の未知の側面の追究につながるだろう。このような大きなエンタングルメントエントロピーを示す量子系に関して,ホログラフィック原理の立場からの解釈について研究が進められている。ブラックホールの情報問題やワームホールとの関係も興味深い。(著者抄録)