抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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「冷却フェルミ原子ガス」と「中性子星」-片や地上の実験室で人工的に作り出された希薄な気体,片や宇宙の彼方に存在する半径10km程の高密度天体-前者の最近の発展の紹介と共に,一見関係のない両者を結びつけることがこの解説の目的である。冷却フェルミ原子ガスとは,ガス化したアルカリ金属原子
40Kや
6Liを磁気的,光学的手法で空中に捕獲し,フェルミ縮退温度以下の極低温(≦0(μK))まで冷却した量子気体である。フェッシュバッハ(Feshbach)共鳴により原子間にはたらく引力相互作用の強さを自在に制御できるという画期的性質を有しており,この特長を活かすことで超流動転移とBCS-BECクロスオーバーが2004年に実現した。後者の現象では,引力相互作用が強くなるにつれ,超流動の性質が通常の金属超伝導で議論されるBCS状態から,超流動転移温度以上で形成された強く結合した分子ボソンのボース・アインシュタイン凝縮(Bose-Einstein condensation,BEC)への連続的な移行が見られる。両者の中間領域はクロスオーバー領域,あるいはユニタリ領域と呼ばれ,クーパー対の形成と解離で特徴付けられる対形成揺らぎが系の物性を支配する。超流動化が成功した2004年当初,超伝導研究の分野に比べ,充実しているとはとても言えなかった観測可能量のリストは,その後の努力で着実に増え,今では熱力学量など多くの物理量が精密に測定できるようになった。これに呼応して理論も発展し,現在,BCS-BECクロスオーバー領域で観測された物理量を,全てではないものの,強い引力相互作用に起因する対形成揺らぎを考慮することで,定量的レベルで説明できる水準に達している。もう一つのキーワードである中性子星は,超新星爆発の残骸として生まれ,中性子が主たる構成成分であると考えられているものの,未だ謎の多い天体である。近年,太陽質量の2倍に匹敵する重い中性子星の存在が確認され,それが既存の理論のいくつかを棄却することから,あらためてその内部状態に注目が集まっている。なかでも,内部組成と密接に関係する状態方程式は,トールマン-オッペンハイマー-ヴォルコフ(Tolman-Oppenheimer-Volkov,TOV)方程式と組み合わせることで,共に観測可能な中性子星の質量Mと半径Rの関係式(M-R relation)を与えることから,特に重要視されている。我々は,中性子星の表面近傍の比較的低密度領域で実現しているとされる中性子の超流動状態が,ユニタリ領域にあるフェルミ原子ガス超流動と類似していることに着目した。もちろん,両者は完全には同じでないが,後者に対する実験結果を定量的に説明できる理論を出発点とし,2つの系の差異を理論的に補正することで,これまで原子核物理学の分野で議論されてきた状態方程式のうち,低密度領域が再現できることを示した。この領域は,状態方程式以外にも,中性子星の冷却やグリッチ現象とも関連していると考えられており,従来の原子核物理学からのアプローチに加え,冷却フェルミ原子ガス物理学から中性子星の謎に迫る新たな展開が今後期待される。(著者抄録)