抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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銅酸化物高温超伝導体の発見(1986年)から30年余りが経過するが,その超伝導発現機構に関して皆が納得するような理解は得られていない。そのような状況にあっても,「超伝導は反強磁性絶縁体母物質へのキャリアドーピングにより発現する」というフレーズは多くの研究者の認めるところであった。例えば,BednorzとMuellerにより最初に発見されたLa
2-xBa
xCuO
4は,母物質のK
2NiF
4構造(略称T構造)La
2CuO
4のLa
3+をBa
2+で置換した「正孔ドープ超伝導体」(T
c~30K)である。逆に,La
2-xCe
xCuO
4は,母物質のNd
2CuO
4構造(略称T’構造)La
2CuO
4のLa
3+をCe
4+で置換した「電子ドープ超伝導体」(T
c~30K)である。現在,教科書的に信じられている高温超伝導体の電子相図(超伝導転移温度(T
c)やネール温度(T
N)などの特性温度のドープ量x依存性)からは,超伝導が正孔・電子ドーピングいずれによっても発現し,おおよそ「正孔・電子対称性」が成立しているように見てとれる。この相図に基づいて,「キャリアをドープしていない母物質は反強磁性モット絶縁体であり,適量のキャリアドーピングにより超伝導が発現する」という「ドープされたモット絶縁体」描像が提唱された。そして,強い電子相関描像から超伝導発現機構にアプローチする流れができあがっていった。これに対し,我々のグループでは,2003年以降,T’構造を持ち,少なくとも化学式上は母物質のままの「ノンドープ超伝導体」を次々と合成した。分子線エピタキシー(MBE)法をはじめとする高度な薄膜成長手法を物質合成に適用して得られた成果である。ノンドープ超伝導体が薄膜の形で合成・発見されたのには,「銅-酸素の化学結合が弱い」という銅酸化物超伝導体の物質科学的な特徴が大きく関係している。さらに2009-2010年になると,電子相関を顕わに扱える動的平均場理論(DMFT)と,第一原理計算の局所密度近似(LDA)を組み合わせた計算手法により,銅に酸素が八面体六配位したT構造と,同じく平面四配位したT’構造の「配位の差による電子構造の違い」を予測できるようになった。Rutgers大のグループは,T-La
2-xSr
xCuO
4とT’-Nd
2-xCe
xCuO
4に対してDMFT計算を行い,母物質T-La
2CuO
4とT’-Nd
2CuO
4の基底状態が異なることを示した。反強磁性秩序を起こさず常磁性状態が維持されると仮定したとき,T構造の母物質T-La
2CuO
4は電荷移動型絶縁体,T’構造の母物質Nd
2CuO
4は常磁性金属になるという結論である。T’構造の母物質が超伝導性を示すという我々の実験結果と基本的には整合する。これらの結果の解釈に関しては,未だ論争が続いているが,将来のさらなる研究によってノンドープ状態での超伝導発現が確立すれば,高温超伝導の発現機構と物理を理解する流れの一つのターニングポイントとなるであろう。本表題中の「ルネサンス」は,銅酸化物超伝導研究における原点回帰と多様性の復興を意図したものである。(著者抄録)