抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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可燃性電解液を使用しない,構造が単純で積層による高電圧化が可能,負極にエネルギー密度の大きい金属リチウムを使用できるなどの利点をもつ全固体リチウム二次電池は,伝導度が大きく扱いやすいリチウムイオン伝導体を必要とする。開発の先行している伝導度の大きい硫化物系リチウムイオン伝導体は,大気暴露時などに有毒なH
2Sの発生が懸念されるため,より安全な酸化物系リチウムイオン伝導性材料への期待が高まっている。しかし,金属リチウムに対する還元耐性を有し,伝導度も大きい酸化物系材料はLi
7La
3Zr
2O
12に代表されるガーネット系化合物にほぼ限られており,かつその合成は比較的煩雑なため,より合成の容易なリチウムイオン伝導体が望まれている。ボラサイトは一般式がA
3B
7O
13X(A:2価陽イオン,X:主にハロゲン陰イオン)である化合物の総称であり,派生化合物として陽イオンがLi
+であるリチウムボラサイトLi
4+xB
7O
12+x/2X(x=0-1)がある。しかし,伝導度が最高であるx=0のLi
4B
7O
12Clでも室温伝導度は~10
-6S cm
-1と低く,簡便な合成法もなかったためリチウムイオン伝導体としては注目されていなかった。また,A
3B
7O
13X,Li
4+xB
7O
12+x/2XともにBサイトの元素置換は前例がなかった。一方,筆者らは最近,熔融急冷-結晶化によってLi
4B
7O
12Clが結晶化ガラスとして容易に得られることを見出していた。本研究では,Li
4B
7O
12ClのBサイトの元素置換による新規リチウムイオン伝導体の探索的研究と,それを用いた全固体リチウム二次電池の作製を目的とした。Li
4B
7O
12Cl中のBO
4ユニット中のB(イオン半径0.25Å)を置換しうるAl
3+イオン(四配位イオン半径0.53Å)およびGa
3+イオン(同0.61Å)を置換元素候補とし,Li
+イオン拡散のボトルネック拡張によるイオン伝導度向上を目指した。所定の比で混合したLi
2CO
3,B
2O
3,γ-Al
2O
3またはβ-Ga
2O
3,LiClを熔融急冷後,600°Cで熱処理して結晶化ガラスを得た。原料中のBとMの物質量の和に占めるMの割合をyとした。いずれの試料もほぼ完全結晶化した。粉末X線回折測定とRietveld解析から,yが~0.43(3/7)のとき,母相Li
4B
7O
12Cl中の全BO
4(全Bの3/7)がMO
4で置換された化合物Li
4B
4M
3O
12Cl(M=Al,Ga)が主相として生成したことが示された。これらは新規物質で,ボラサイトのBサイトを置換した初めての化合物であり,その格子定数は既知のボラサイト中で最大であった。主相の重量分率はAlドープ試料で~87wt%,Gaドープ試料で~76wt%であった。不純物としてLi
4B
7O
12Clが生成し,固溶体Li
4B
4(B,M)
3O
12Clがみられないのは,Li
4B
4M
3O
12Clが安定相であり,固溶体を形成するより両端組成へ分相した方が熱力学的に有利であるためと解釈できる。示差熱分析から,無ドープ試料ではLi
2B
4O
7の生成を経てLi
4B
7O
12Clが二段階で結晶化するのに対し,y=0.43で作製したAl,Gaドープ試料ではともにボラサイト相Li
4B
4M
3O
12Clが初晶として結晶化することが分かった。さらに,Al,Gaドープ試料での結晶化温度は無ドープ試料でのLi
2B
4O
7の結晶化温度よりも低いうえ,Gaドープ試料では急冷直後からLi
4B
4Ga
3O
12Clの析出が確認された。これらの結果は,AlまたはGaのドープはボラサイト相の格子エネルギーを増大させ,その析出を促す効果があることを示唆する。また,Alドープによってガラス転移温度が下がるという通常のガラスとは異なる特異な挙動が観察された。Au電極を用いて評価した交流伝導度は,Alドープ試料ではy=0.43,Gaドープ試料ではy=0.30で最高となった。無ドープ試料に比べ,活性化エネルギーは~30%減少,室温伝導度は~1桁増大して~1×10
-5S cm
-1となり,従来リチウムボラサイト系化合物で最高伝導度であったLi
4B
7O
12(Cl,Br)単結晶の値を超えた。金属リチウムとの接触に対して安定で最高の伝導度を示したy=0.43で作製したAlドープ試料に対し,Li-Au合金電極を用いて定電流dc分極測定を行った。測定中の観測電圧の変動や極性変更に伴う過渡電流はほとんどなく,dc分極測定と交流伝導度測定とで試料抵抗の値も一致したことから,Li
+イオンの輸率が~1であることが確かめられた。作用極としてAu電極,対極および参照極としてLi-Au合金電極を用いて行ったサイクリックボルタンメトリー測定から,Alドープ試料が0-6V vs.Li/Li
+の広い電位窓を有し,全固体リチウム電池の固体電解質として使用しうることが示された。この試料と界面形成の容易なイオン液体を少量含浸させたLiCoO
2系複合正極,Li-Au合金負極を組み合わせた擬固体電池で電気化学測定を行い,電池動作が確認された。この結果から,塩素を含むリチウムイオン伝導体が,原理的に全固体電池に適用可能であることが示された。(著者抄録)