抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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日本沿岸を流れる黒潮は,流域の気象や海象,生態系に多大な影響を及ぼす.これまでの研究によって,北大西洋のガルフストリームと同様に,表層で貧栄養である黒潮は,その亜表層では栄養塩を下流へ運ぶ栄養塩ストリームであることが明らかとなっている.本稿では,この黒潮の上流から下流である黒潮続流で発生する重要な鉛直混合過程と,その影響について特に黒潮栄養塩ストリームからの栄養塩供給に関して考察を試みた.これまでの観測結果を再度検討・考察した結果,黒潮が浅瀬や海山上を常に流れなければならない沖縄トラフ・トカラ海峡などの上流域では,著しく強い乱流鉛直混合が栄養塩躍層付近で常に発生し,O(1mmol N m
-2day
-1)程度の硝酸塩鉛直拡散フラックスを発生させている可能性が明らかとなった.海底地形の影響が少ない下流域では,亜表層の黒潮内での乱流混合は上流に比べれば弱いものの,黒潮の高温高塩分水と親潮の低温低塩分水が,中規模からサブメソスケールの流動による掻き混ぜや,近慣性内部波に伴う等密度面に沿った流動によって,等密度面上で貫入構造を形成し,活発な二重拡散対流が発生していることがわかった.また,黒潮続流表層の混合層フロント下の躍層では,栄養塩濃度も貫入構造を形成し,混合層下部で発生した乱流が,この薄いフィラメント状の高栄養塩濃度層から有光層にO(1mmol N m
-2day
-1)程度で栄養塩を供給していることも明らかとなった.栄養塩ストリーム下流域での栄養塩供給に重要だと考えられているインダクションについて,渦解像モデルを用いて検討した結果,混合層の水平勾配が,中規模の構造に強く依存しているため,インダクションによる供給が局所的に大きくなる海域が,中規模構造に関連して形成されることがわかった.これらの結果は,黒潮上流では黒潮栄養塩ストリームの栄養塩が,黒潮が海底地形で発生させる乱流混合によって,より直接的に表層に供給されるのに対し,下流域では,中規模現象に依存してインダクションが局所的に強化されたり,中規模やサブメソスケールの流動による等密度面上の栄養塩舌状分布の形成と,乱流や二重拡散対流による舌状構造上部からの栄養塩拡散という異なるスケールの現象の協働によって,栄養塩供給が発生していることを示す.(著者抄録)