抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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有機分子を酸化還元中心にする二次電池用活物質は軽量かつ希少元素を使用しない電気化学機能性材料として着目されている。一方で,固体状態で有機分子を酸化還元させた場合,有機分子結晶の多くは,結晶構造内に金属イオンの拡散経路およびイオンが挿入するサイトを持たないため,酸化還元を伴うイオンの脱挿入に際して,構造変化が大きく,また,電解液に溶解することで,酸化還元の繰り返しおよび高い電流密度時における性能低下が見られることが問題となっている。これらを解決するために,高分子化を行うことで,結晶構造乱れを誘起し,イオン脱挿入における構造変化の緩和,高分子化による電解液への溶解を抑制する手法が用いられており,有機高分子電極材料の研究が行われてきている。本研究では,有機分子を酸化還元中心として,かつイオン拡散経路を有する電極材料として,有機分子を挿入した層状無機化合物に着目した。層状無機化合物の広い空間をイオン拡散経路として活用し,二次電池電極材料特性としての高性能化,特に繰り返し特性の向上を期待した。また,活物質が酸化還元に伴いイオンを脱挿入させる反応において,活物質粒子と導電パスが密接につながっていることが重要であり,このために活物質粒子サイズの矮小化は非常に重要な課題である。一方で,ゲル化能を示す有機高分子基板中で結晶成長を行うことで,ナノサイズの粒子が秩序構造を持って,高分子ゲル基板中で成長することが知られている。導電性を有する高分子基板にヒドロゲル能を持たせて,先で述べた結晶成長技術を駆使することにより,本研究では活物質のナノ粒子と導電性高分子が密接に複合化した複合体薄膜の作製を行った。具体的には,活物質となる酸化還元部位と金属との相互作用部位を有する有機分子の設計および合成を行った。合成した有機分子を,条件を最適化した水溶液プロセスにおいて層状無機化合物の層間に挿入し,酸化還元種を含む層状無機化合物の合成を行った。さらに電気化学測定を行うことにより,得られた層状化合物の電気化学特性の評価を行った。酸化還元能を示す有機分子を層間に挿入した層状化合物について,挿入した有機分子に由来する酸化還元特性を示すことがわかり,層状無機化合物が電極活物質として使用できる可能性を示した。酸化還元能を示す有機分子が層間に挿入された層状化合物について,その挿入された有機分子由来の酸化還元特性を示すということが確認されたので,この酸化還元性層状化合物を高分子と複合化することにより,ナノスケールで有機高分子と複合化した機能性層状化合物/有機高分子複合体薄膜の作製を水溶液プロセスで行った。高分子基板に対する簡便な結晶成長技術を駆使することにより,ナノメートルオーダーの結晶子が巨視的な配向構造を有する複合体薄膜の作製に成功した。巨視的な配向構造は,挿入する有機分子の分子構造,複合化する高分子基板のモルホロジーおよび結晶成長に使用する溶液の濃度などに影響を受け,変化することを見出した。高分子基板として,導電性を有する高分子を用いて,ナノ構造を有する酸化還元性層状化合物/有機高分子複合体薄膜の作製にも成功した。導電性高分子得られた複合体薄膜の電気化学特性の評価を行ったところ,導電性高分子を用いなかった場合と比較して,電気伝導性が向上し,酸化還元性層状化合物に由来する,酸化還元特性が得られることが分かった。しかし,その性能はまだ十分であるとはいえず,複合化する高分子基板の導電性の向上が今後に向けた重要な改善点となる。また,複合化する酸化還元性層状化合物の量も多くなく,これらを向上させることにより,微視から巨視的な秩序構造を有する酸化還元性複合体薄膜の作製が期待できる。このように,本研究は,新たな酸化還元特性を有する機能性複合体薄膜を簡便なプロセスで作製するための足がかりとなる研究となっており,この研究を基として,蓄エネルギー材料や電気化学的スイッチング材料など新たな電気化学デバイスの開発が期待される。(著者抄録)