抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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光は固体の物性を司るおそらくすべてのミクロな自由度にアクセスできる唯一の外場であり,欠くことのできないツールとして物性研究に広く利用されている.強度の弱い光は固体内の電子・格子構造を破壊することなく測定するプローブであり,物性を理解する上で多彩な情報が得られる.一方,近年発展の著しい高強度レーザーを照射することで,固体内の電子・格子構造が劇的な変調を受け,瞬時に強い非平衡状態が実現したりマクロな領域にわたる物性の変化が生じる.後者は特に光誘起相転移として知られ,光照射による構造相転移や超伝導転移などについて現在も精力的な研究がなされている.固体中で最もよく知られている秩序現象は磁性である.磁性を光により操作する試みには基礎的,応用的観点から膨大な研究がある.光照射がもたらす大きな効果の一つは熱による温度上昇であり,局所的に転移温度を超えた温度が実現することで磁気秩序が破壊される.光による磁性(秩序)→非磁性(無秩序)転移現象は光磁気ディスク(MOディスク)における磁気記録法として製品化にまで至っているが,現在ではその容量や速度の点においてDVDやフラッシュメモリに後塵を拝している.これを超える磁性の光操作のために円偏光や磁場成分を用いた新しい原理が提案されており近年研究が大きく進展しているが,そこでは大きなスピン軌道相互作用を持つ物質や超高強度パルス光が必要と考えられている.光により生じる強い非平衡状態の物理現象を理解・探索するには理論研究による解析と指導原理の提案が不可欠である.しかしながら,有効温度に着目した反応速度方程式(レート方程式)や大きな領域で粗視化した磁化を対象とした現象論が大部を占めているのが現状であり,微視的な理論解析や原理の提案に関しては十分になされているとは言い難い.磁性は電子スピンやその間に働く交換相互作用,電子相関効果が本質的な役割を担っており,それらの要素を取り入れた微視的理論の構築が強く望まれている.本稿で対象とする二重交換相互作用は,金属強磁性を司る微視的相互作用として半世紀以上前に提唱されたものである.元来は遷移金属酸化物の強磁性を説明するために導入されたが,今日では磁性半導体や有機導体にまで適用範囲が拡大し,巨大磁気抵抗効果や異常ホール効果,さらには光により誘起される強磁性など,広範な磁性を説明する典型的な強磁性相互作用として知られている.我々は二重交換相互作用を記述する理論模型を相補的かつ多角的に解析することで,光照射により実現する強い非平衡状態においてこの相互作用が強磁性ではなく反強磁性相互作用となることを見出した(右図).長年にわたり典型的な強磁性相互作用として知られていた二重交換相互作用に,このような側面が隠されていたことは大変な驚きである.新たに見出した光照射による強磁性から反強磁性への転移は,従来から知られていた強磁性から常磁性,反強磁性から強磁性への転移と相補的な現象であり,これらと併せて双方向の磁性操作原理のための基礎理論が得られたと捉えられる.さらに強磁性から反強磁性に移行する過渡状態にトポロジカルなスピン構造が出現することを見出した.一連の研究結果は光によるスピン制御の一指針を与えると共に,新たな光誘起非平衡磁性研究の進展を期待させる.(著者抄録)