抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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トポロジカル絶縁体とよばれる物質群には,通常の絶縁体では見られない特殊な金属的表面状態が存在している.このトポロジカル表面状態は,スピン偏極したディラック電子から構成されており,多彩な機能性の発現の舞台として近年大きな注目を集めている.通常の絶縁体とトポロジカル絶縁体は,バンド反転とよばれるバンドを構成する波動関数の「ひねり」の有無で分類することが可能であるが,実験的に判別するには表面に存在するディラック電子の特徴を捉える必要がある.そのため,固体中のバンド分散を高分解能で可視化することが可能な角度分解光電子分光(Angle-Resolved PhotoEmission Spectroscopy,ARPES)が,これまでトポロジカル絶縁体の実験的検証に重要な役割を担ってきた.ARPESは占有電子状態を観測する手法のため,主にトポロジカル表面状態がフェルミ準位より下にあるn型試料(例えば,Bi
2Se
3やBi
2Te
3など)を測定の対象としてきた.しかし一方で,トポロジカル表面状態が非占有側に位置しているp型試料(例えば,Sb
2Te
3など)の場合,通常のARPESでは表面状態を捉えることができないという問題が存在していた.そこで我々は,p型トポロジカル絶縁体の非占有バンド分散を捉えるために,ポンプ・プローブ法とARPESを組み合わせた時間分解ARPESに着目した.時間分解ARPESは占有・非占有バンド分散の観測が可能なため,n型からp型までの様々な物質を測定対象とすることができる.我々はこの手法を用いて,p型Sb
2Te
3のトポロジカル表面状態の全容を高分解能で捉えることに成功した.また,ポンプ光とプローブ光の間に遅延時間を設けることによって,超高速キャリアダイナミクスを追跡できる点も時間分解ARPESの大きな利点の1つである.Sb
2Te
3のバンド分散の過渡変化を時間分解ARPESによって詳細に調べたところ,ポンプ光によって励起された電子が,まるで砂時計の中の砂粒のように,トポロジカル表面状態を介して平衡状態へ緩和していることが明らかとなった.さらに,Sb
2Te
3にBiをドープしてディラック点の位置をフェルミ準位に近づけると,5ピコ秒程度であった非平衡状態の持続時間が400ピコ秒以上に延び,トポロジカル絶縁体に付与した光情報を少なくともナノ秒域まで持続可能であることも見出した.超高速キャリアダイナミクスを観測することで,トポロジカル絶縁体の光機能に関する知見も得ることができた.キャリアチューニングによってトポロジカル絶縁体のバルクの絶縁性を高めると,金属表面とのキャリア密度の違いを反映して表面光起電力効果が発生することが明らかとなった.トポロジカル絶縁体の表面にはスピン偏極したディラック電子が存在するため,光によって起電力を生じることはスピン偏極電流の取り出しにも利用できるだろう.表面光起電力効果はパルスレーザーだけではなく,ランプや太陽光であっても原理的には発生可能であるため,今後,光とトポロジカル絶縁体の相互作用を活用したスピン流の生成・制御に関する応用展開が期待される.(著者抄録)