抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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本研究において,著者らは,元町における岩壁に直接彫刻されている石仏である,元町石仏における塩類風化を,覆屋における温湿度環境を計算することによって抑制する方法を明らかにした。数値解析によって,著者らは,石仏を含めた岩壁を二次元で,また覆屋の壁を一次元でモデル化して,熱および水分の挙動を分析した。さらに,覆屋内の温度と湿度を計算するための組合せモデルを構築し,2014年11月から2017年10月までの期間における,覆屋内の温湿度環境を再現することによって,解析結果についての妥当性を検証した。塩の析出量が彫像からの蒸発量に比例すると,また,塩(硫酸ナトリウム)がその相を変化させる時に塩類風化が発生すると仮定して,石仏における熱水分特性による塩の析出と塩類風化のリスクを定量的に推定した。これらのモデルを用いることにより,覆屋の改修を,断熱,気密性および太陽放射の遮蔽の改善である3つの要素に分割した。数値解析により得られた主な結果を以下の通り記述した。1.覆屋の改修により,石仏の表面からの蒸発量は全ての要素により抑制される。2.蒸発量の季節変化に着目し,夏期の蒸発量を抑制することができるが,断熱改修以外では冬季においては困難である。3.硫酸ナトリウムの相変化に関する研究において,覆屋内の相対湿度が改修前より高く,また彫像の表面の吸湿性がテナルド石にとって好ましくなくなるため,硫酸ナトリウムについての相変化の回数は減少すると考えられる。一方で,気密性のみを向上させると,覆屋内の温度は高く保たれ,硫酸ナトリウムがテナルド石にその相を変化させることが容易になり,塩類風化のリスクが概して抑制されていると言うことができない可能性がある。4.全ての改修が行われた場合(すなわち,改修後),塩の析出量と硫酸ナトリウムに関する相変化の回数が著しく減少し,塩類風化のリスクが抑制されると考えられる。今後の課題は以下の通りである。元町石仏において,覆屋の改修の結果として,覆屋における相対湿度は,年間を通してより高湿化した。このような高湿度環境においては,かび成長のリスクが高く,来訪者の健康への影響に関する懸念がある。さらに,地下水のような大規模な水供給源がある限り,彫像から蒸発を完全に抑制することは困難である。したがって,塩類は石仏内に徐々に蓄積されていくため,塩類析出は完全には抑制できないと考えられる。特に,後者の問題は,覆屋内の温湿度環境を制御するのみでは解決できず,そのため,著者らは,彫像に蓄積する塩を除去する技術の開発を開始する。さらに,来訪者の健康リスクと彫像の保存に基づいて,元町石仏の保存と展示の方法を考慮する必要がある。(翻訳著者抄録)