作物研究
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選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 稲村 達也
    2023 年 68 巻 p. 1-6
    発行日: 2023/06/21
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    中国では 1979 年以降の計画経済体制にかわる双層経営体制(農家請負制)により,農家は農業の集約化を図ることが可能となり,より多くの年間収量とより高い利益を得るようになったが,農業の持続性は低下し環境問題を引き起こしてきた.そこで,中国の汚染湖のひとつである滇池の沿岸部において実施されている集約的農業システムにおける物質循環の実態を評価した.野菜の周年栽培では化学肥料と堆伯肥が,集約的畜産では濃厚飼料が大量に使用されていた.しかし,農業システム内で有効に利用されなかった投入資源の余剰が,地下水や河川水の高い硝酸態窒素などの環境問題を引き起こしていた.この様な実態に対して,集約的な地域農業システムにおいて収量を低下させないで栄養素収支を改善するための方策を提示した.それは,多毛作における収支バランスを改善するための土壌中硝酸態窒素濃度に応じた葉菜類への化学肥料投入量の削減,アブラナ科野菜連作圃場における施肥窒素吸収率を改善するための太陽熱土壌消毒によるアブラナ科野菜の根こぶ病制御,そして,汚染水対策のため湿地に栽植されたヨシの粗飼料化による農業システム内窒素循環の強化である.
  • 杉本 小夜, 坂口 和昭, 髙垣 昌史, 木村 美和子 , 髙辻 渉, 前田 拓也
    2023 年 68 巻 p. 7-13
    発行日: 2023/06/21
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    イタドリ(Fallopia japonica)は和歌山県内では山間地域を中心に食される郷土山菜であるが,近年,シカの食害等により山での採取量が減少している.このため,栽培に取り組む地域が増加しており,より効率的な栽培や活用を行うには,収穫量が多く,皮が剥きやすいなどの栽培・加工に適した優良系統苗の供給が望まれている.このような要望に応えるため,和歌山県内で収集したイタドリについて特性調査を行い,優良系統選抜を行うとともに組織培養による増殖に取り組み,現在,一般財団法人日高川町ふるさと振興公社バイオセンター中津(和歌山県日高郡日高川町高津尾 1052-1)(以下,(一財)バイオセンター中津)において優良系統苗の販売が行われている.また,イタドリの新たな活用に繋げるため,和歌山県工業技術センターおよび地域生産者である日高川町生活研究グループ連絡協議会美山支部イタドリ部会(以下,イタドリ部会)との共同研究により,機能性成分の分析と商品開発を行った.その結果,未利用部位であったイタドリの若芽の先や花,皮などにポリフェノールが多く含まれていることが明らかになり,これらの部位を活用したジャムペースト,ドレッシング,健康茶の 3商品を開発した.各商品は,日高川町内の産品販売所で販売中である.
  • 堀端 章, 寺口 友基, 橋本 結衣, 谷本 隆
    2023 年 68 巻 p. 15-23
    発行日: 2023/06/21
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    江戸時代中期,製蝋業の興隆にともなって,九州からもたらされたハゼノキが関東以西で大規模に栽培されるようになった.ハゼノキの大規模栽培が行われた和歌山県紀美野地区では,栽培ハゼノキから近縁野生種ヤマハゼへの遺伝的浸潤が起こったとみられる.本研究では,この地域で採取したハゼノキおよびヤマハゼのRAPD-PCR とクラスター分析を行い,新産業導入が近縁野生種の遺伝的多様性に与えた影響について検討した.その結果,この地域ではハゼノキとヤマハゼの交雑が進んでいて,典型的なヤマハゼは既に消滅していることが示唆された.また,製蝋業が衰退し,ハゼノキ園が管理されなくなると遺伝的浸潤の速度が増すこと,花粉や種子が小鳥によって運搬されるハゼノキやヤマハゼでは,針葉樹の経済林が遺伝的浸潤の障壁となる可能性も示唆された.
  • 吉田 凌也, 種坂 英次, 築山 拓司
    2023 年 68 巻 p. 25-29
    発行日: 2023/06/21
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    イネ品種コシヒカリの自然突然変異体であると考えられているイセヒカリは,低頻度ではあるが自然条件下で様々な変異 体を生じることが知られている.本研究では,イセヒカリにおいて転移因子mPingおよびnDartが転移しているかを調査した.トランスポゾンディスプレイ解析の結果,イセヒカリとコシヒカリの間にmPingおよびnDartの挿入多型とコピー数多型があった.このことから,イセヒカリが成立する過程でこれらの転移因子の転移が関与した可能性が示唆された.しかしながら,イセヒカリの自殖後代 100 個体を用いたトランスポゾンディスプレイ解析では,イセヒカリにおいてmPingおよびnDartが今なお転移している証拠を得ることができなかった.これらの結果は,通常栽培条件下で栽培したイセヒカリにおいてmPingおよびnDartは活性がないかあるいは低活性であることを示唆している.
  • 川上 耕平, 徳田 裕二, 重松 健太, 大野 智史, 高山 定之
    2023 年 68 巻 p. 31-39
    発行日: 2023/06/21
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    滋賀県犬上郡甲良町の大規模個別経営体の 3 年 4 作田畑輪換体系ほ場において,農研機構とアグリテクノサーチ株式会社が共同開発している大豆用高速畝立て播種機(以降,試作 4 条機)の田畑輪換体系への導入効果を検証するため,現地慣行機であるロータリシーダ(以降,慣行機)と比較する栽培実証および経営評価を 2 年行った.その結果,試作 4 条機の播種能率は慣行機に比べ 2 倍高く,中耕培土作業能率は 1.4 倍高かった.7 月が多雨であった 2020 年は,播種時に畝を形成する試作 4 条機のほ場では,慣行機で播種したほ場に比べ初期生育は優った.2 年とも試作 4 条機のほ場の子実重は慣行機と同等以上で,2020 年は節数や莢数が有意に増加した.以上の結果をもとに経営評価を行ったところ,試作 4 条機は慣行機に比べ播種および中耕培土の作業能率が高く,労務費を概ね半分に抑えられ,収量を同等以上確保できたことから,10a 当たり 1,277 ~ 3,673 円増益した.  以上より,試作 4 条機は,梅雨期であっても土壌条件が良好であれば,慣行機よりも 2 倍の能率で播種作業が実施可能で,収量の安定化と収益の向上が期待できることから,大規模経営体への導入効果は大きいと見込まれた.
  • 竹生 敏幸, 谷坂 隆俊
    2023 年 68 巻 p. 41-50
    発行日: 2023/06/21
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    アジア諸国の中でも特に単位面積当たり子実収量が低いフィリピン共和国のミンダナオ島で借用した農家水田 24 ha で固定型 indica 品種 RC240 を栽培し,熱帯稲作の問題点を探るとともに,土壌微生物叢活性剤 Takeo-Tanisaka 液(以下,TT 液)の効果を調査した.その結果,ミンダナオ島における稲作の低収量は,病虫害,ネズミの食害,洪水や干ばつなどの自然災害,灌漑設備などの圃場施設の不備などが原因であること,および,TT 液の散布と化学肥料の減量が,病虫害や干ばつによる被害を軽減し,収量を大幅に増加させることが判明した.また,殺菌剤の不使用と,水田周辺の草叢の刈取も重要であること,ただし,必要最低限の殺虫剤は使用してもよいことが示された.この推測の正しさを検証するために,フィリピン稲研究所アグサンが主催する収量のみを競う稲作コンテストに 3 期連続で挑戦した.コンテストでは,肥料や殺菌剤を一切使用せず,TT 液と最小限の殺虫剤のみを使用し,さらに試験田の周囲の草刈り,水管理を徹底して行った.その結果,収量性の低い固定型品種 RC240 を使用したにもかかわらず,自社製のハイブリッド品種,肥料および農薬を使用した巨大バイオ・ケミカル企業を 3 期連続で抑えて首位の成績を得ることができた.3 作期の平均佅収量 7.22 ton/ha はフィリピン稲研究所・アグサン支所管内の RC240 の平均収量およびフィリピン共和国の全品種の平均収量のそれぞれ 2.4 ~ 2.9 倍,および 1.9 ~ 2.0 倍に上った.これらのことから,TT液の投入と上記コンテストで採用した栽培管理が,熱帯地域のイネ収量の増大と,同地域の「低投入持続農業」の実現と推進に有効であると結論した.
  • 杉本 充, 岩川 秀行, 森 大輔, 辻 康介, 蘆田 哲也, 田中 康久
    2023 年 68 巻 p. 51-60
    発行日: 2023/06/21
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    京都府で普及するアズキの狭条密植栽培における雑草防除技術を開発するために,麦・大麦若葉用除草機として普及している除草カルチ機による機械除草(以下,カルチ作業)が雑草とアズキに及ぼす効果について検討を行った.本研究で供試した除草カルチ機による作業後の雑草調査では,残草が確認された箇所は,播種条を中心とした株間が多かった.また,2 回または 3 回のカルチ作業を行った区は 1 回のみの作業の区に比べると,雑草量は抑制傾向にあり,アズキ栽培期間中においては,カルチ作業は複数回行う必要があるものと考えられた.ただし,カルチ作業の回数が多いほど株当たり莢数が減少しており,カルチ作業によってアズキの収量関連形質に負の影響が生じることが示唆された.
  • 山口 周治, 坂本 春香, 築山 拓司, 種坂 英次
    2023 年 68 巻 p. 61-64
    発行日: 2023/06/21
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル オープンアクセス
    エノキタケ Flammulina velutipes 品種 “ 初雪 ”(HY)を用いて共優性マーカー(InDel)を開発した.ヘテロな座を検出するために HY の分裂子に由来する 2 種類の単核系統を用いた.InDel 領域について調べた 314 のプライマーセットのうち 145 セットにおいてヘテロな座を検出した.任意に選んだ 18 座の InDel マーカーでは,担子胞子由来の単核系統群において,いずれの座でもアレルは 1 : 1 の比に分離した.この結果は得られた InDel マーカーが胞子形成から胞子発芽を通して,選択に中立なマーカーとして利用できることを示唆している.
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