抄録/ポイント:
抄録/ポイント
文献の概要を数百字程度の日本語でまとめたものです。
部分表示の続きは、JDreamⅢ(有料)でご覧頂けます。
J-GLOBALでは書誌(タイトル、著者名等)登載から半年以上経過後に表示されますが、医療系文献の場合はMyJ-GLOBALでのログインが必要です。
多くの量子通信プロトコルで広く利用されるエンタングル光子対は,通常,自発パラメトリック下方変換(SPDC)を用いで生成される。SPDCでは,非線形光学結晶に励起光を入力することでエネルギー保存則を満たす光子対が生成される。SPDCによる光子対生成では理想的な1対の2光子のみが励起される訳ではなく2対3対といった多光子対が同時に励起される。多光子対は単一光子ベースの量子情報処理において質の低下を引き起こす。そこでこの影響を抑制するために弱励起のもとでSPDCを行うのが一般的である。しかし弱励起は真空の割合を増加させてしまうため,1光子対生成レートは,励起光の繰り返し周波数に対して2桁ないし3桁低くなるのが通常である。例えば,励起光の繰り返しがGHzであっても,光子対生成はMHz程度にまで下がってしまう。光子対生成レート向上の手法の1つとして注目されているのが光周波数多重化である。周波数多重化にはいくつかの方法が存在する。素朴に思いつくアイデアとして,周波数的に広がった光子対をあらかじめ生成し,その後バンドパスフィルターで光子対を周波数的に分離する方法がある。しかしこの方法では,高密度周波数多重のために狭線幅フィルターを使う際に透過率を高く維持するのが難しい。これとは違う方法として,共振器構造をあらかじめ光子対源に付与することで元々周波数的に分離された光子対を出す方法がある。この方法では後段の狭線幅フィルターが不要になるため,前者に比べて光子対に対する透過率を総合的に高くすることが可能となる。本研究では,こうした背景のもと,2次の非線形光学結晶を光共振器に閉じ込めた光子対生成源を構築し,周波数多重化に向けた実験を行った。実験で用いた2次の非線形光学結晶は,結晶長20mmの周期分極反転構造を有するニオブ酸リチウム導波路(PPLN)である。1560nmの2倍高調波発生が温度50°Cで最も効率が高くなるように位相整合の設計がされている。共振器については,より安定で閉じ込め効果の高いデバイスにするべく,導波路端面に誘電体多層膜コートを施すことでモノリシック共振器構造とした。両端の反射率は,1535nmから1770nmの波長の光に対して99%以上であり,745nmから790nmの波長の光に対しては無反射コートとして1%以下になるように設計した。実際に得られた通信波長帯の光に対する共振器の性能は,Q値が5.5×10
6,半値全値が35MHz,自由スペクトル領域(FSR)が3.5GHzであった。FSRは導波路長20mmから計算される値とよく一致した値であり,Q値も十分高いものが得られた。光子対生成実験の準備段階として,このモノリシックデバイスに発振閾値以上の励起光を入力することで実際に周波数多重・分離されたコム状のスペクトルが観測されるかを古典光学の範囲で確かめる実験を行った。励起光として280mWの通信波長の光をPPLNに入力したところ,2倍波生成過程と光パラメトリック発振のカスケード過程によって約60nm程度に広がった周波数コムスペクトルを得ることができた。また,通信波長光の周波数を共振器の共振周波数に合わせて出力光のビート測定を行ったところ,中心周波数3.5GHzの位置に,非常に鋭いビートスペクトルを観測した。このことから,コム間隔はFSRと非常によく一致していることが分かった。今後の展望として,本デバイスを発振閾値よりも十分小さい励起光で用いることで,周波数多重化された光子対生成器として利用できる可能性が示唆された。また,量子波長変換による周波数自由度量子操作技術と組み合わせることで周波数自由度量子情報処理への応用も期待できる。(著者抄録)