抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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愛媛県松山平野では,1990年からの約25年間に,淡水二枚貝のイシガイとマツカサガイが減少し,2017年現在イシガイはほぼ地域絶滅し,マツカサガイも絶滅の危機にある。また,松山平野では,これらの二枚貝を産卵床とするヤリタナゴが生息するが,その分布域も急減し,かつ国内外来種のアブラボテと産卵床を巡って競合し,二種の間の交雑が生じている。そのため,ヤリタナゴ-マツカサガイ共生系の保全が急務である。本研究では,人為的な管理が容易な自然再生地の保全区としての有用性を検討するため,二つの自然再生地(広瀬霞と松原泉)の,それぞれ1地点と,上,中,下流の3地点に加え,農業灌漑用湧水地である柳原泉の1地点の,計5放流区にマツカサガイを放流し,マツカサガイの生残率を追跡した。同時に,餌となる珪藻量や溶存酸素量などの環境条件の計測を行った。その結果,広瀬霞で一年間の生残率が37%,松原泉下流で半年間の生残率が75%であった。他の3放流区では一年の間に全ての放流個体が斃死した。これらの放流区が不適な要因として,珪藻類の密度の低さが挙げられた。生残が確認された広瀬霞や松原泉下流における珪藻類の密度は他の放流区と比べると高いが,国近川や神寄川のマツカサガイが自然分布する地点に比べると低い時期があった。また,広瀬霞と松原泉上流で,2015年10~11月に低酸素状態(3~5mg/l)が発生した。追跡調査中,放流したマツカサガイ個体が底質から脱出することが確認された。この行動は,その後二週間以内に死亡する個体で頻繁に見られ,不適な環境からの逃避と考えられた。柳原泉では,アブラボテの侵入と放流したマツカサガイへの産卵が確認された。これらの結果から,マツカサガイとヤリタナゴの共生保全区を策定するには,珪藻類の密度が高く,一年を通して貧酸素条件が発生しない,アブラボテの侵入を管理できる場所とすべきであることが示唆された。放流後のモニタリングにおいては,冬季にマツカサガイの底質からの脱出がないこと,アブラボテの侵入がないことに留意する必要がある。本研究で用いた自然再生地では,珪酸の添加や,水を滞留させる構造を付加するなど,珪藻類を増加させる対策と,外来性の浮葉性植物を駆除し貧酸素状態を生じさせない対策をとり,保全地として再評価することが必要である。(著者抄録)