抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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原子核を構成する核子(陽子,中性子)や核力を担うπ中間子は,ハドロンと呼ばれる複合粒子の一種である。核子やπ中間子以外にも,内部自由度の励起モードや構成要素であるクォークの種類(フレーバー)に対応して多数のハドロンが存在する。これまでに,約300種類のハドロンが,加速器を用いたハドロン反応実験を通じて確認されている。最近では,電子・光子ビームをプローブとする中間子生成反応実験の進展にともない,従来のハドロンの質量スペクトルから,電磁形状因子などハドロン励起状態のクォーク・グルーオンサブ構造に迫る研究へと進みつつある。今日,この研究分野はハドロン分光と呼ばれている。ハドロン分光の研究は,E.FermiらのΔ(1232)バリオンの発見(1952年)に始まる。以後,次々に発見されたハドロンのうち,基底状態の性質はクォークのもつスピン・フレーバー対称性により系統的に説明される。励起状態の質量スペクトルについても,ハドロンをクォーク少数粒子系の束縛状態とする構成クォーク模型に基づいて,スペクトルのおおよその振る舞いを理解することができる。しかし,構成クォーク模型をはじめ,ハドロン構造模型の多くは,励起状態を安定粒子とする“静的なハドロン”の描像をとっている一方,散乱実験で観測されるハドロン励起状態のほとんどは,10
-22秒ほどでより質量の小さい複数個のハドロンに崩壊する,非常に不安定な共鳴状態である。このような共鳴状態は,ハドロン連続状態の成分を多く含んでいる筈である。実際,電磁形状因子の研究が進むにつれ,単純なクォーク模型では理解できない現象が見つかってきた。このために,“共鳴状態としてのハドロン励起状態”という観点が導入された。著者らは,散乱振幅の2体及び3体ユニタリ性を満たしつつ,ハドロン連続状態を含む様々な共鳴状態の解析を可能とする動的チャンネル結合模型(DCC模型)を開発した。この反応模型を用いて,光子・π中間子ビームによる陽子を標的にした中間子生成反応の解析から,核子共鳴のスペクトルや電磁形状因子が得られ,共鳴状態の詳細な理解が進みつつある。DCC模型は,今後,さらに高励起核子共鳴状態,重いクォークを含む系,中間子共鳴にも応用され,量子色力学(QCD)の非摂動論的事象を解明することが期待される。(著者抄録)