抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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絶縁性磁性体は,磁性原子(或はラジカル)に局在したスピンが磁性を担うので,スピン系として記述される。スピン間には交換相互作用が働き,系の基底状態と励起状態を決める。通常の磁性体では,スピンを量子力学的交換関係を無視した古典的ベクトルのように考えても,磁性の多くを理解できる。これは古典的基底状態が一意的に決まり,量子揺らぎが古典的基底状態を覆すことが殆どないからである。これに対して,スピンが小さい三角格子反強磁性体では,多体効果である幾何学的フラストレーション(隣接するスピンを全て反平行に配置することができない状況)とスピンが小さい場合に顕著な量子効果によって,古典スピン模型では説明が難しい基底状態が生まれる。以下に述べるように,量子効果は特に磁場中で顕著に現れる。交換相互作用が等方的なHeisenberg模型(JS
i・S
j)の場合に,三角格子反強磁性体のゼロ磁場の基底状態は,量子効果が最も顕著なS=1/2の場合でも古典スピン模型の結論と同じく,スピンが互いに120°をなす三角構造であると考えられている。しかし,古典スピン模型では,磁場中の基底状態は一意的に決まらず,古典的基底状態には連続的な縮退が残る。この縮退は量子揺らぎによって解け,ある特定のスピン状態が安定化されることが理論的に知られている。象徴的な量子効果は,3つの部分格子スピンのうちの2つが磁場と平行になり,残る1つが反平行になるup-up-down状態が有限の磁場範囲で安定化され,磁化曲線に飽和磁化の1/3の位置にプラトーが現れることである。これは古典スピン模型では説明できない巨視的量子効果である。しかし,この量子磁化プラトーを含む磁化過程全体の実験的検証は殆どなく,S=1/2の場合では,歪んだ三角格子をもつCs
2CuBr
4で狭い磁化プラトーや逐次量子相転移が観測されたのみであって,理論の検証は定性的な範囲に限られていた。Ba
3CoSb
2O
9は,有効スピン1/2をもつCo
2+が正規の三角格子を形成する反強磁性体である。最近,我々はBa
3CoSb
2O
9の粉末試料と単結晶試料の強磁場磁化測定を行い,量子磁化プラトーを含む磁化過程全体の実験的検証を初めて行った。実験で得られた磁化曲線は厳密対角化や結合クラスター法による高精度の計算結果と定量的に一致する。(著者抄録)