抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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物質と光の相互作用は,多くの物理現象の基礎である。例えば発光ダイオード(LED)は半導体と光の相互作用を利用し,半導体のバンドギャップ(エネルギーギャップ)で隔てられた多数の電子とホールが再結合することによって光を発する。近年電子デバイスの微細加工技術が発展し,量子デバイスの研究が進んでいるが,量子デバイスにおいても,その量子状態と光との相互作用は重要である。例えば,ある量子状態は,量子準位間のエネルギー差に等しいエネルギーの光を吸収したり放出したりすることによって,別の量子状態に遷移する。共振器量子電磁力学(cavity QED)の手法を用いると,上記のように光を量子状態制御に利用するだけでなく,電磁場の量子化により光そのものを量子力学的に扱うことができる。即ち,物質と光との間での量子情報交換や,量子非破壊測定等の量子情報処理に不可欠な現象を記述することが可能となる。回路量子電磁力学(circuit QED)は,cavity QEDの原理を回路上の共振器および人工原子で実現する。circuit QEDでは半導体微細加工技術による回路の作製が可能であるため,共振器,人工原子,および両者の間の相互作用を比較的自由に設計することができる。当初,cavity QEDの研究がcavity中に光(光子)をとじこめることにより光と物質(原子)とを強く相互作用させることをねらって行われ,強い相互作用を実現することによって新しい量子情報分野のツールを獲得してきたことを考えると,circuit QEDの手法でより強い相互作用を実現することにより,さらに新しい応用への可能性が拓かれることが期待される。しかしこれまで,実現された相互作用のエネルギーは,光子のエネルギーの10%程度であった。今回我々は,circuit QEDの手法を用いて,相互作用のエネルギーが原子の遷移エネルギーや光子自体のエネルギーをも超える「深強結合状態」と呼ばれる状態を実現することに成功した。原子-光子結合系は,超伝導磁束量子ビット人工原子,集中定数型LC共振器中のマイクロ波光子,両者を結合させるジョセフソン接合から成る。測定された結合系の遷移エネルギースペクトルは複雑であったが,Rabiモデルと呼ばれる,2準位原子と調和振動子の結合系を記述するモデルに基づいた理論計算とよく一致した。この結果,結合系の原子の遷移エネルギー,光子自体のエネルギー,相互作用のエネルギーが求まり,相互作用のエネルギーは原子の遷移エネルギーよりも一桁大きく,最大で光子自体のエネルギーの130%程度にも達することがわかった。Rabiモデルからは,「深強結合系においては基底状態を含むエネルギー固有状態がエンタングル状態(磁束量子ビットの永久電流状態とマイクロ波光子状態のエンタングル状態)である」ことが導かれる。我々の深強結合系の測定結果とRabiモデルに基づいた理論計算との一致は,このようなエンタングル状態が実現されていることを強く示唆する。今後は,これまでにない強さの強結合やエンタングルした基底状態または励起状態の,量子情報分野への応用が期待される。(著者抄録)