抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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人為的に印加された電界は,物質の表面界面において様々な現象を引き起こす.電界効果トランジスタに始まり電界誘起の金属絶縁体転移や超伝導転移などの興味深い現象が多数発見され,電子デバイスの基盤技術としても期待されている.最近は半導体に限られると思われた電界効果が金属でも生じることがわかってきた.強磁性体の自発磁化がある特定の方向に向く傾向を磁気異方性という.例えば六方最密充填構造のバルクCoでは自発磁化が結晶c軸を向く.では異種材料を積層させた多層膜では何が起きるだろうか.多層膜は膜面垂直方向に系の対称ベクトルを持つ.これは界面の存在が原因である.従って仮に結晶構造由来の対称性がなくても,界面の存在により膜面垂直方向に磁気異方性を有する可能性がある.実際にCo/Ni・Co/Pd・Fe/Ptをはじめとした金属/金属膜,Fe/MgOをはじめとした金属/誘電体膜は膜面垂直方向に一軸異方性を有する.これが界面垂直磁気異方性である.ではFe/MgOをはじめとした金属/誘電体膜に外部から電圧を印加すると何が起きるだろうか.MgOは誘電体なので内部に線形な電界が生じる.Feは金属なのでマクロには静電遮蔽により内部電界はゼロとなる.しかし,ミクロには界面近傍1-2原子層程度のFeに電界が生じる.実際にFe/MgO系では一軸異方性の源である界面に電界が印加され,一軸異方性が変化する.これが電界誘起磁気異方性変調効果である.この電界効果を使うと金属強磁性体の磁化方向をサブナノ秒程度の速さで制御できる.これは磁気ランダムアクセスメモリのように高速・高書込耐性が必要なスピントロニクスデバイスにおける究極の動作原理として期待されている.これまでに界面由来の磁気異方性及びその電界効果は現象論的に説明されてきたが,微視的な物理描像に乏しく材料設計が困難であった.そこで近年,我々はX線分光や第一原理計算による電界効果の機構解明を目指した研究を推進してきた.具体的には3d系のFe/Co/MgO膜や3d/5d系のFe/Pt/MgO膜を基軸とするスピントロニクスデバイスに対し,X線磁気円二色性分光を適用した.結果として軌道磁気モーメントや磁気双極子T
z項が電界変調されることを確認し,電界誘起磁気異方性変調効果の起源となることを見出した.3d系の電界効果が軌道磁気モーメントの変化により引き起こされることは,従来の理論的研究で予想されていた.一方で3d/5d系ではFeでなく補助的な役割を担うと考えられてきたPtが界面磁気異方性や電界効果を主に担うことが今回明らかとなった.さらに驚くべきことにスピン反転励起項で説明される電気四極子機構が従来の軌道磁気モーメント機構を凌駕することも明らかにされた.この電気四極子機構は電子の再配列で説明される.つまり金属における電界効果が絶縁体や半導体とは異なり,静電遮蔽効果のため生じる界面の非線形電界ポテンシャルによる効果であることを意味する.これらの成果は巨大電界効果を実現するための材料設計指針になり,さらには従来の磁気異方性の考え方を変える必要がある点からも重要であると考えられる.(著者抄録)