抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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電気透析法による海水濃縮プロセスの高効率化は重要な課題であるため,低抵抗と高輸率を併せもつ新規なイオン交換膜が求められている。そこで本研究では,“イオンビーム照射グラフト重合法”という独自の手法を用いて,電気透析用の新しいナノ構造制御カチオン,アニオン交換膜(以下,それぞれCEM,AEMとする)を合成した。この合成法では,高分子基材膜の重イオンビーム照射で潜在飛跡内に高密度で生成した励起活性種(ラジカルや過酸化物)に対し,カチオンまたはアニオン交換基に変換可能な官能基を有するモノマーをグラフト重合することで,荷電チャネルを形成する。その後,電気透析セルを用いたモデル海水の濃縮試験に必要となる,ナノ構造制御CEM,AEMのイオン輸送特性を調べた。実験では,高崎量子応用研究所のサイクロトロン加速器からの560MeV
129Xeイオンビームをエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)膜(25μm厚)に真空中で照射した。ETFE膜1cm
2当たりに照射した
129Xeイオンの個数(フルエンス)は3.0×10
8あるいは1.0×10
9個であった。重イオンビーム照射ETFE膜をいったん大気中に取り出した後,p-スチレンスルホン酸エチル(EtSS)溶液,またはクロロメチルスチレン(CMS)溶液に浸漬し,Ar雰囲気下,60°Cでグラフト重合を行った。その後,それぞれ温水中におけるEtSSグラフト鎖の加水分解,トリメチルアンモニウム水溶液によるCMSグラフト鎖の四級化を経て,ナノ構造制御CEM,AEMを合成した。ETFE膜に対するEtSS,CMSのイオンビーム照射グラフト重合と,その後の加水分解,四級化が定量的に進行した結果,2.0~2.5mmol/gまでの広範囲でイオン交換容量が任意制御されたCEM,AEMをそれぞれ得た。膜内に均一に進行するγ線グラフト重合とは対照的に,局所的,かつ高密度なエネルギー付与が可能な重イオンビームでは,そのナノ構造制御性によって含水率の抑制と膜抵抗の低減が達成されるとともに,市販のCEMに迫る輸率も確認することができた。このように,電気透析応用に有望なイオン輸送特性が見出されたことから,今後は実験条件の最適化によって,既存膜性能を凌駕するCEM,AEMの開発を進め,電気透析セルを用いたモデル海水の濃縮試験も視野に入れたい。(著者抄録)