抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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2006年,A.Kitaevによって興味深い量子多体模型が提案された。キタエフ模型と呼ばれるこの模型は,スピン1/2をもつ量子スピンが2次元蜂の巣格子上でイジング的な相互作用をしたシンプルなものである。しかしその見かけからは想像し難い豊富な物理を含んでいることから,物性物理のみならず,統計基礎論や量子情報など物理学の様々な分野で大きな注目を集めている。この模型の最大の特徴は,基底状態が厳密に求まることである。2次元以上の量子多体模型で可解なものは非常に限られているため,この特質は様々な新しい知見をもたらしてくれる。とりわけ驚くべきことは,その基底状態が,物質中の新しい量子状態のひとつとされる量子スピン液体となっていることである。さらに,相互作用が異方的な極限では,基底状態がトポロジカルな秩序で特徴付けられる。これは,従来の対称性の破れに基づく分類に収まらない新しい秩序状態である。また,この特異な基底状態を反映して,励起状態も興味深い性質を示す。例えば,フェルミ統計にもボース統計にも従わない非可換エニオンが現れる。この特異な粒子は,トポロジカル量子計算の演算要素として有望視されるものである。別の興味深い側面として,キタエフ模型がイリジウム酸化物などのスピン軌道相互作用が強い強相関電子系で実現する可能性が指摘され,実験・理論の両面から精力的な研究が行われていることも挙げられる。こうした多彩で興味深い性質のうち,我々は物性物理の視点からキタエフ模型が示す量子スピン液体状態に着目し,その熱力学的性質を解明した。これまで,量子スピン液体の理論的研究は,主に三角格子などの幾何学的フラストレーションを有する格子上の強相関電子模型に対して行われてきたが,そこでは負符号問題のために従来の量子モンテカルロ法が適用できず,系統的な研究は困難であった。こうした事情は幾何学的なフラストレーションのないキタエフ模型の場合にも現れる。そこで我々は,マヨラナフェルミオン表示に基づいた新しい量子モンテカルロ法を開発し,それを適用することで,一切近似のない数値的な解析を行うことに成功した。本稿では,キタエフ模型を3次元に拡張した模型に対して得られた計算結果を紹介する。...(著者抄録)