抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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ブラックホールが熱力学的性質をもつ,という話をご存じだろうか。例えば,ブラックホールに対してエントロピーを定義することができ,実際ブラックホールの合体などの過程において,そのエントロピーが増大することは,古くから知られている。また,ブラックホールの周辺で粒子と反粒子が対生成するような量子効果を考えると,いわゆるホーキング輻射をとおして,ブラックホールが少しずつエネルギーを放出していることがわかる。この性質をもとに温度を定義することもできる。通常,熱力学的に振る舞う系は,非常に多くの力学的自由度からなっており,その系を巨視的に見ることによって初めて熱力学的性質が現れる。ではブラックホールの場合,その力学的自由度は何なのか。そもそも,アインシュタイン方程式の解として導かれるブラックホールが,どうしてエントロピーをもつのか。その起源は何なのか。この問いに答えるには,ブラックホールの内部構造を理解する必要がある。しかしブラックホールの中心には特異点が存在するため,重力の古典論である一般相対性理論では答えることができない。それ故この問題は,一般相対性理論を超えた重力の量子論的定式化の言わば試金石として,現在に至るまで盛んに議論されてきた。超弦理論は,重力を含む4つの基本的な相互作用と物質粒子を統一的に,量子論的に記述する理論である。しかし,従来の超弦理論は摂動論的に定式化されたものにすぎず,ブラックホールの熱力学的性質を理解するのは困難に見えた。ところが1990年代に入って状況は一変する。超弦理論におけるソリトン解が発見され,それがブラックホールを表すことがわかったからだ。特に1997年,Maldacenaはこのような考えを発展させて,ブラックホールの内部構造を超対称ゲージ理論で記述できると主張した。この超対称ゲージ理論は,ソリトン解のまわりの超弦の励起に対する有効理論として導かれる。また,この超対称ゲージ理論が定義される時空は平坦であり,ブラックホールが存在する時空よりも低い次元をもつ。このためMaldacenaの主張は,ブラックホールなどをホログラムのように記述できるとするホログラフィック原理を具体的に実現するものとも見なせる。(著者抄録)