抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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熱膨張は気体,液体,固体の別を問わない物質の基本的性質であり,低温の水などのこくわずかな例外をのぞき,一般に物質は加熱をすると膨張する。例えば,ガラスのコップに熱湯を注ぐと割れるのは内側のみが急激に膨張するためであるし,鉄道のレールの継ぎ目に隙間があいているのは,夏場に膨張したレールが曲がるのを防ぐためである。電車の乗り心地が多少悪いのは我慢できるが,光通信や半導体製造などの精密な位置決めが要求される場面では,わずかな熱膨張さえも大きな問題になる。物質によって熱膨張係数は大きく異なるので,半導体パッケージなど,異種材料の接合が温度環境の変化にさらされるデバイスでは,割れやそりを避けるため,熱膨張係数のすり合わせが行われる。また,光通信に用いられる精密光学機器や,大型天体望遠鏡,半導体製造装置などでは,温度変化に伴う位置の狂いを避けるため,熱膨張をゼロに近づける必要がある。低熱膨張材料は,調理器具などの熱ショックを受ける分野にも使われる。近年では,負の熱膨張係数を持つ材料を金属や樹脂に分散させ,加工性・機械特性に優れたゼロ膨張材料を作る試みも進められており,より高性能の負熱膨張材料の開拓は常に求められている。従来型の負熱膨張のメカニズムは次の二つに大別される。一つは結晶中の多面体ユニットが結晶の空隙を埋めるように変位することで収縮が起こるケース,もう一つは金属磁性体の磁気転移によって収縮が起こるケースである。しかしながら近年,これらと全く異なるメカニズムで巨大な負熱膨張を示す新物質が,ペロブスカイト型構造を持つ遷移金属酸化物ABO
3の中から発見されて注目を集めており,これが本記事のテーマである。新物質の特徴は,Aサイトにバレンススキッパーと呼ばれる特定の価数を避ける性質を持つ元素を有する点であり,巨大負熱膨張の主原因は,この性質に由来した金属元素A-B間の電子移動を伴う相転移(価数転移)であることが実験的に明らかにされた。ペロブスカイト型酸化物は極めてポピュラーな物質群であるが,その物性を支配するのは通常Bサイト遷移金属(または酸素)であり,Aサイトイオンは裏方,というのがこれまでの常識である。従って,このようなAサイトの電子が深く関わる物性現象は理論的にも実験的にも未開拓の領域といえる。そこで我々は,Aサイトにバレンススキッパーを有するペロブスカイト型酸化物に広く適用可能な有効模型を構築し,その基本的性質を理論的に調べた,その結果,新物質BiNiO
3において観測された圧力・温度誘起の価数転移を理論的に再現することに成功し,さらにこの相転移が電子相関とBサイトの電子軌道準位に強く依存することを明らかにした。これは遷移金属元素Bを置換することで価数転移が生じる可能性を示唆しており,実際にBiMO
3(M=Cr,Mn,Fe,Co,Ni)の価数変化だけでなく,最近分光実験により確認されたPbMO
3(M=Ti,V,Cr,Ni)の価数変化も良く説明する。本有効模型は,今後の新物質研究における標準的模型になると期待される。(著者抄録)