抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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1954年のシリコン太陽電池の開発以来,太陽電池のエネルギー変換効率の高効率化が人類の重要な課題の1つとなっている。最近では,ナノ構造の量子効果を利用した新しいアプローチにより,効率向上の研究が活発に行われている。特に,簡便な溶液化学法により作製できるコロイドナノ粒子は,低コストで大量生産が可能な半導体量子ドットで,しかも驚くほど欠陥が少ない高品質半導体であることからその活用が期待されている。この高品質量子ドットではマルチエキシトンが室温において形成されるため,マルチエキシトンが内包する複数のキャリアを電流として取り出す高効率太陽電池の実現が議論されている。量子ドットを用いた太陽電池研究では,異なるバンドギャップエネルギーを持った複数の物質を利用する方法や,キャリアの非平衡状態を利用する方法など,さまざまな提案がなされており,原理検証やデバイス設計・開発が活発に進められている。例えば,量子ドットはサイズ制御によってバンドギャップエネルギーを変化させることが可能で,異なるサイズの量子ドットを多重に積層することで,太陽光スペクトルの幅広い領域を吸収し発電できる。また,1つの光子から複数のエキシトンが生成される現象(マルチエキシトン生成)を利用することで,1光子から多数の電子への変換によって効率向上が見込まれる。実際にこの方法で増幅したキャリアを外部に取り出せることが示され,実用に向けた研究が進められている。これら量子ドット特有の現象を利用した太陽電池を実現するには,エキシトン生成とキャリア分離の超高速ダイナミクスに関する深い理解が必要となる。マルチエキシトン生成過程では,コヒーレントに重ね合わさった量子状態が重要であると理論的に考えられているが,そのコヒーレント応答の観測は未だに成功していない。マルチエキシトンにおけるコヒーレント状態を明確に観測したという報告はなく,光照射中のエキシトン生成と緩和過程のダイナミクスを正確に計測できる新しい分光法の開発が必要である。そこで我々は,マルチエキシトンの量子状態と光吸収過程の理解に向けて新しいコヒーレント分光法を開発した。室温という電子系にとって過酷な環境でエキシトン量子状態を計測するために,2つのレーザーパルス光の相対位相を高精度に安定化させた位相ロックパルスを作製した。この分光法では,パルス光の光電場干渉信号とエキシトンのダイポール振動を同時に計測することが可能であり,その違いからマルチエキシトンの量子状態を解明することができる。我々は,入射パルス光の周波数の整数倍の周波数を持った“高調波ダイポール振動”がマルチエキシトンによって生じることを発見した。さらに,光吸収過程について,1つのパルス光による一段階多光子吸収と時間遅延させた2つのパルス光による多段階多光子吸収を精密に比較することで,エキシトンのコヒーレンスが光吸収効率を高める要因であることを初めて明らかにした。これらのマルチエキシトンのコヒーレント応答は,量子ドットの新しい量子光機能を示すものであり,マルチエキシトンを利用した太陽電池や光検出器の高効率化が期待される。さらに,開発した分光法は物質内部の量子状態を高精度に測定できる強力な手法であり,量子ドットに限らず幅広い光機能材料やデバイスの分光評価への利用が期待される。(著者抄録)