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ご利用者の声_青木 義男氏

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全長約10万kmの巨大なエレベーター


宇宙エレベーター建造の仕組み

そもそも、宇宙エレベーターとはどのようなものなのか。「宇宙エレベーターを簡単に表現すると、『10万kmほどの上下に非常に長い衛星』です」と説明するのは、日本大学理工学部の青木義男教授だ。青木氏は、一般社団法人 宇宙エレベーター協会(JSEA)の副会長も務めていた。

宇宙エレベーターはまず、地上からおよそ3万6000km上空の静止軌道(※)に宇宙ステーションを作り、重心の位置をずらさないようにバラ ンスを取りながら、上下にケーブル(以後、テザー)を伸ばしていく。やがて、下に伸ばしたテザーは地上に接触すると、テザーで地上と宇宙が繋がり、重力と遠心力が釣り合うように伸ばされる上端には、カウンターウエートなどを設置してバランスを取る。これが宇宙エレベーター構想だ。テザーを伝って物を運べば、打ち上げロケットよりも低いコストで宇宙への輸送が可能になる。一般的な打ち上げロケットは、1kgあたり約800万~1600万円が必要といわれているが、宇宙エレベーターならわずか2000円くらいとの試算もある。
1991年の「カーボンナノチューブ」の発見は大きな分岐点となった。
カーボンナノチューブはアルミニウムより軽く、理論強度は鋼鉄の100倍以上、特に引っ張り強度は、ダイヤモンドすら凌駕する。テザーの材料としてカーボンナノチューブ利用の可能性が広く検討されるようになったため、宇宙エレベーターの議論が現実性を持つようになったのだ。
宇宙エレベーターが実現すれば、宇宙旅行が身近な物になる。
さらに、「例えば、太陽光発電など、宇宙空間で作った電気を地上に送ることができれば、化石燃料に依存しない新しいエネルギー源を手に入れることができます。太陽エネルギーは半永久的に利用できますし、地上で災害があった場合でも供給が止まることはありません」と宇宙エレベーターが実現した未来を青木氏は語る。

 

「モノ作り」から「モノゴト作り」への発想の転換

青木氏と宇宙エレベーターの出会いは、2008年に現JSEA会長 大野修一氏のトークショーへの参加までさかのぼるが、当初は宇宙エレベーターに対して懐疑的だったという。青木氏は、機械工学が専門で、長い間、構造計算や強度計算に携わってきた。
その専門性を生かし、国土交通省が主催するエレベーターの安全性に関わる評定評価部会に15年以上参加してきた。
すでに1世紀以上の歴史があり、技術的にも成熟しているはずのエレベーターですら毎年のように事故が起きているのに、宇宙まで届くエレベーターというものは、SFの中のものとしか感じられなかったのだ。

では、なぜ懐疑的だった青木氏は、宇宙エレベーターに深く関わるようになったのだろうか。
「高度経済成長期に日本が持っていた『モノ作り』の技術が、全部人件費の安い海外へ流れてしまい、日本の持ち味がなかなか発揮されなくなってしまいました。 さらに、今の日本では新しいコトを発想していく概念といったものが、特に欧米と比較すると弱いと常々感じていたのです。
ところが宇宙エレベーターの話を聞いているうちに、これはもしかして、教育テーマとして取り上げれば面白いのではないか、と感じるようになったのです」。

「できるわけがない」と切り捨てるのではなく、「実現させるにはどのようにすればよいか」「実現しそうな段階に持っていくにはどうしたらよいか」、つまり「モノゴト」をどうやって作り上げていくかを考えさせることが、教育にとって必要なのではないか、という発想の転換があったのだ。
また、宇宙エレベーターを実現させるためには、テザーの材質・設計・加工などの技術的な側面だけでなく、設置場所の周辺の安全性、生活環境の変化、設置場所の上空における航空機を取り巻く安全対策、電波障害対応、また国際協力など、社会的な側面も考えることで新しい発想に繋がるのではないかと、青木氏は考えたのだった。

 

国際協力とコミュニケーションの必要性

宇宙エレベーターは、1つの国家で実現するようなものではなく、多くの国が参加する国際プロジェクトとして進めなければ実現しない。
よって、宇宙エレベータープロジェクトにおいては「ハーモナイゼーション(協調)」という言葉が非常に重要なキーワードとなる。
国際的なハーモナイゼーションを行うためには、常に海外の動向に目を配っておく必要があるため、青木氏の研究室では、検索エンジンや「J-GLOBAL」の文献検索を使って最新技術のトピックスを集めることは日常の光景であり、技術ロードマップを作成することにも役立っているという。

「実は、キーワード検索や文献検索以外でも『J-GLOBAL』でお世話になったことがあります。
以前、複合材料学会の理事を務めていたときに、JSTの他の事業においてそれまでは紙媒体で保存されていた複合材関連の論文を電子化していただきました。 その結果『J-GLOBAL』で検索できるようになったのです。
論文のPDF化、デジタル化は、大変意義のあることでした」と当時を振り返る。
検索結果といったアウトプットだけでなく、デジタル化された論文を積極的に取り込み、情報をつなげるJ-GLOBALの姿勢が垣間見えるエピソードだ。
現時点でのJ-GLOBALに不満はないという青木氏だが、「チャット」 「ウェブミーティング」といったコミュニケーションツールの機能追加を要望点として挙げる。
現在、海外とのコミュニケーションは、主に一般的な無料通信システムを利用しているが、学術的な議論に特化したようなコミュニケーション機能があれば、もっと便利に使えるだろう。
宇宙エレベーターのような壮大な構想は、日本国内のみならず、世界規模での意見交換や議論を深めていくことが必須。その中から、次世代を担う新しい発想や新しい技術が生まれてくるのかもしれない。

※静止軌道(GSO)
地球の自転と同じ方向に周回する軌道の中で、自転と同期した軌道(対地同期軌道)上にある物体は、地上から見ると一点に静止しているかのように見える。
特に赤道上空の対地同期軌道を静止軌道と呼ぶ。同じ場所の観測に適しているため、気象衛星などが利用している。
[2013年3月]

 


宇宙エレベーター構想図

 

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全長約10万kmの巨大なエレベーター


宇宙エレベーター建造の仕組み

そもそも、宇宙エレベーターとはどのようなものなのか。「宇宙エレベーターを簡単に表現すると、『10万kmほどの上下に非常に長い衛星』です」と説明するのは、日本大学理工学部の青木義男教授だ。青木氏は、一般社団法人 宇宙エレベーター協会(JSEA)の副会長も務めていた。

宇宙エレベーターはまず、地上からおよそ3万6000km上空の静止軌道(※)に宇宙ステーションを作り、重心の位置をずらさないようにバラ ンスを取りながら、上下にケーブル(以後、テザー)を伸ばしていく。やがて、下に伸ばしたテザーは地上に接触すると、テザーで地上と宇宙が繋がり、重力と遠心力が釣り合うように伸ばされる上端には、カウンターウエートなどを設置してバランスを取る。これが宇宙エレベーター構想だ。テザーを伝って物を運べば、打ち上げロケットよりも低いコストで宇宙への輸送が可能になる。一般的な打ち上げロケットは、1kgあたり約800万~1600万円が必要といわれているが、宇宙エレベーターならわずか2000円くらいとの試算もある。
1991年の「カーボンナノチューブ」の発見は大きな分岐点となった。
カーボンナノチューブはアルミニウムより軽く、理論強度は鋼鉄の100倍以上、特に引っ張り強度は、ダイヤモンドすら凌駕する。テザーの材料としてカーボンナノチューブ利用の可能性が広く検討されるようになったため、宇宙エレベーターの議論が現実性を持つようになったのだ。
宇宙エレベーターが実現すれば、宇宙旅行が身近な物になる。
さらに、「例えば、太陽光発電など、宇宙空間で作った電気を地上に送ることができれば、化石燃料に依存しない新しいエネルギー源を手に入れることができます。太陽エネルギーは半永久的に利用できますし、地上で災害があった場合でも供給が止まることはありません」と宇宙エレベーターが実現した未来を青木氏は語る。

 

「モノ作り」から「モノゴト作り」への発想の転換

青木氏と宇宙エレベーターの出会いは、2008年に現JSEA会長 大野修一氏のトークショーへの参加までさかのぼるが、当初は宇宙エレベーターに対して懐疑的だったという。青木氏は、機械工学が専門で、長い間、構造計算や強度計算に携わってきた。
その専門性を生かし、国土交通省が主催するエレベーターの安全性に関わる評定評価部会に15年以上参加してきた。
すでに1世紀以上の歴史があり、技術的にも成熟しているはずのエレベーターですら毎年のように事故が起きているのに、宇宙まで届くエレベーターというものは、SFの中のものとしか感じられなかったのだ。

では、なぜ懐疑的だった青木氏は、宇宙エレベーターに深く関わるようになったのだろうか。
「高度経済成長期に日本が持っていた『モノ作り』の技術が、全部人件費の安い海外へ流れてしまい、日本の持ち味がなかなか発揮されなくなってしまいました。 さらに、今の日本では新しいコトを発想していく概念といったものが、特に欧米と比較すると弱いと常々感じていたのです。
ところが宇宙エレベーターの話を聞いているうちに、これはもしかして、教育テーマとして取り上げれば面白いのではないか、と感じるようになったのです」。

「できるわけがない」と切り捨てるのではなく、「実現させるにはどのようにすればよいか」「実現しそうな段階に持っていくにはどうしたらよいか」、つまり「モノゴト」をどうやって作り上げていくかを考えさせることが、教育にとって必要なのではないか、という発想の転換があったのだ。
また、宇宙エレベーターを実現させるためには、テザーの材質・設計・加工などの技術的な側面だけでなく、設置場所の周辺の安全性、生活環境の変化、設置場所の上空における航空機を取り巻く安全対策、電波障害対応、また国際協力など、社会的な側面も考えることで新しい発想に繋がるのではないかと、青木氏は考えたのだった。

 

国際協力とコミュニケーションの必要性

宇宙エレベーターは、1つの国家で実現するようなものではなく、多くの国が参加する国際プロジェクトとして進めなければ実現しない。
よって、宇宙エレベータープロジェクトにおいては「ハーモナイゼーション(協調)」という言葉が非常に重要なキーワードとなる。
国際的なハーモナイゼーションを行うためには、常に海外の動向に目を配っておく必要があるため、青木氏の研究室では、検索エンジンや「J-GLOBAL」の文献検索を使って最新技術のトピックスを集めることは日常の光景であり、技術ロードマップを作成することにも役立っているという。

「実は、キーワード検索や文献検索以外でも『J-GLOBAL』でお世話になったことがあります。
以前、複合材料学会の理事を務めていたときに、JSTの他の事業においてそれまでは紙媒体で保存されていた複合材関連の論文を電子化していただきました。 その結果『J-GLOBAL』で検索できるようになったのです。
論文のPDF化、デジタル化は、大変意義のあることでした」と当時を振り返る。
検索結果といったアウトプットだけでなく、デジタル化された論文を積極的に取り込み、情報をつなげるJ-GLOBALの姿勢が垣間見えるエピソードだ。
現時点でのJ-GLOBALに不満はないという青木氏だが、「チャット」 「ウェブミーティング」といったコミュニケーションツールの機能追加を要望点として挙げる。
現在、海外とのコミュニケーションは、主に一般的な無料通信システムを利用しているが、学術的な議論に特化したようなコミュニケーション機能があれば、もっと便利に使えるだろう。
宇宙エレベーターのような壮大な構想は、日本国内のみならず、世界規模での意見交換や議論を深めていくことが必須。その中から、次世代を担う新しい発想や新しい技術が生まれてくるのかもしれない。

※静止軌道(GSO)
地球の自転と同じ方向に周回する軌道の中で、自転と同期した軌道(対地同期軌道)上にある物体は、地上から見ると一点に静止しているかのように見える。
特に赤道上空の対地同期軌道を静止軌道と呼ぶ。同じ場所の観測に適しているため、気象衛星などが利用している。
[2013年3月]

 


宇宙エレベーター構想図

 

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