抄録/ポイント:
抄録/ポイント
文献の概要を数百字程度の日本語でまとめたものです。
部分表示の続きは、JDreamⅢ(有料)でご覧頂けます。
J-GLOBALでは書誌(タイトル、著者名等)登載から半年以上経過後に表示されますが、医療系文献の場合はMyJ-GLOBALでのログインが必要です。
物質に光を当てたときに起こる現象は,温度上昇により起こる現象とは本質的に異なる。温度を上げた場合,固体中の電子はフェルミ分布に,格子振動(フォノン)はボーズ分布に従うため,高温でも多くの電子やフォノンは基底状態付近に分布したままである。また温度上昇に際して系は熱平衡状態を保つため熱力学,統計力学を用いて記述できる。他方,光を当てた場合,電子やフォノンをその光子エネルギーに対応した状態へ直接励起することができる。この場合,電子やフォノンはそれぞれフェルミ分布,ボーズ分布から遠く離れた非平衡状態にあってそれらの温度は定義できず,またその状態の振る舞いを体系的に説明できる理論もまだない。そのため依然として物理において解明すべき重要な課題となっている。このような状態を,実験的に観測するにはどのようにすれば良いのであろうか?一般に物質の性質は,結晶構造と各原子の最外殻の電子,すなわち価電子により決まる。そのため結晶構造と価電子の変化を,光励起により状態変化が起こっている時間スケール,すなわちフェムト(10
-15)秒からピコ(10
-12)秒で観測できれば,時々刻々と変化する非平衡状態を知ることができる。現在では超短パルスレーザーの発達により,このような時間幅の光パルスを容易に得られるようになっている。また価電子や結晶構造の状態は,赤外から紫外にわたる分光スペクトルやX線などによる回折像から知ることができる。光励起状態において特異な物性を示す物質のひとつに,電子同士のクーロン相互作用が強く一電子近似が成り立たない強相関物質が挙げられる。中でも有機電荷移動錯体はその低次元性,柔らかい構造ゆえに,わずかな電場や圧力の印加によって著しい物性変化を示すだけでなく,光励起によっても構造相転移をはじめ様々な現象が現れることが期待される。特に電子と格子の間の相互作用の強い電荷移動錯体(EDO-TTF)
2PF
6では,これまでフェムト秒からナノ秒の時間スケールに対応した様々な超高速観測手段により,特徴的な光誘起相転移現象が明らかにされている。この物質は室温で金属的な1次元伝導を示し,280Kまで冷やすと電荷が局在化して絶縁体へ転移する。...(著者抄録)