抄録/ポイント:
抄録/ポイント
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珪藻は指標生物として河川の水質判定に利用される微小藻類である。その細胞を覆うガラス質の殻は不活性であり,長年保存されても質的に変化しない。この性質を利用し,過去および現在の珪藻試料から,異なる時代の河川環境を評価し,その変化を生徒に理解させる授業プログラムの作成が可能と考えられる。本研究では過去の河川環境を代表する試料として,1982年に多摩川全域から採取された17の珪藻標本を国立科学博物館のコレクションから選定し,当時の河川水質を識別珪藻群法により評価した。さらに,これらの試料が採取された地点から,2016年に現在の珪藻試料を採取し,同様に水質を評価した。1982年の多摩川では,永田橋から下流の地点では汚濁指数が概ね2.5~3.7となり,有機汚濁が激しかった過去の河川状況を反映した結果が示された。一方,2016年では,永田橋から下流の地点では汚濁指数が1.9を下回り(丸子橋堰上を除く),水質が改善された今日の状況を表す結果が示された。なお,1999年に識別珪藻群のリストが改定されて以降,命名規約上の学名の変更を生じた種や,既知の種に類似した幾つかの新種が報告されている。本研究では適正な学名を識別珪藻群の珪藻に与えるため,多摩川に出現した当該種を走査電子顕微鏡(SEM)観察した。その結果,従来,強汚濁耐性種に分類されたNavicula minima sensu Lange-Bert.et Bonik(non N.minima Grunow)およびNavicula seminulum sensu Lange-Bert.et Bonik(non N.seminulum Grunow)は,それぞれSellaphora nigri(De Not.)C.E.Wetzel et EctorおよびSellaphora saugerresii(Desm.)Wetzel et D.G.Mannと同定すべきであることがわかった。また,小形のNitzschia frustulm(Kuetzing)Grunow,Nitzschia hantzschiana Rabenhorst,Nitzschia fonticola(Grunow)Grunowに類似するNitzschia soratensis Morales et Visは調査を行った試料中には出現していないことが明らかとなった。環境教育において,河川水質の変化を実験的に示すことは通常は困難である。しかし,本研究で使用した過去と現在の珪藻標本は,その間の水質変化を如実に示す物的証拠である。これらの標本を教材として用いることで,学習者が環境変化を実感し,人間活動と河川環境の関係を,現実感を伴って理解することは可能であろう。学習者の河川環境意識の向上,および科学に基づく意思決定能力の育成を図る,珪藻を教材としたグローバルな授業プログラムの開発を検討した。(著者抄録)