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J-GLOBAL ID:202002280699396713   整理番号:20A2523265

原子1個の綱引き「電流」vs「力」-シリコン原子スイッチにおけるトンネル電流と原子間力の競合

Tug-of-War of an Atom. Current vs Force-Competing Tunneling Current and Atomic Force on Si Atom Switch
著者 (3件):
資料名:
巻: 75  号: 11  ページ: 677-682  発行年: 2020年11月05日 
JST資料番号: F0221A  ISSN: 0029-0181  CODEN: NBGSA  資料種別: 逐次刊行物 (A)
記事区分: 解説  発行国: 日本 (JPN)  言語: 日本語 (JA)
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「この小石を動かせ」と問われたらどうするだろうか?手で触って動かす,というのが多くの人の答えだろう.では,「この原子を動かせ」と問われたらどうするだろうか?手で触って動かす...わけにはいかない.原子は手で触るにはあまりにも小さすぎるし,なによりも量子力学のルールに従っているからだ.小石にしても原子にしても,形あるものが最初に触れ合う場所が表面だ.地球の表面と中身は極端な例だが,一般に表面には中身とは異なる別世界が広がっている.シリコン単結晶を(111)面で切り出した有名な「Si(111)-7×7表面」には,中身の7倍周期の別世界が広がっている.最近でも,オール表面といえるグラフェン,表面のみ金属のトポロジカル絶縁体など,表面特有の物性に注目した研究が流行している.表面の利点は直接見て触れるという点だが,それをフル活用した装置が「走査トンネル顕微鏡」だ.これは,原子レベルで鋭利な探針を表面に近づけ,トンネル電流を流しながら走査し,原子スケールで電子状態を可視化する.この姉妹品ともいえる「原子間力顕微鏡」は,探針をさらに近づけて,原子間の力を検出し,原子構造を直視する.近年,走査トンネル顕微鏡と原子間力顕微鏡の垣根が低くなり,一探針二役の同時測定が流行している.これらの顕微鏡の大きな特徴は,原子を見るだけでなく,探針で触って動かせることだ.1991年にIBMは走査トンネル顕微鏡を用いて世界初の「原子操作」を実演した.それ以来,主に走査トンネル顕微鏡の電流によって数多くの原子操作がなされ,原子間力顕微鏡の力もそれに続いた.原子操作の中でも,2状態間で切り替わるものは特に「原子スイッチ」と呼ばれ,0と1のビットを表現するメモリーへの応用が期待されている.我々は,有名な「Si(111)-7×7表面」上に,原子操作を用いてシリコン原子4つからなる「シリコンテトラマー」の原子スイッチを組み立てた.次に,走査トンネル顕微鏡のトンネル電流による下向きスイッチ操作,原子間力顕微鏡の原子間引力による上向きスイッチ操作を両方実現した.最後に,上下に競合する両者を組み合わせて,スイッチ操作の向きを連続的に調節した.これは,電流と力による原子1個の綱引きといえる.「この原子を動かせ」と問われたら,手の代わりに原子の探針を使えばよい.また,原子の世界が量子力学に従っているというのなら,トンネル電流や原子間引力を活用すればよい.このように,走査トンネル顕微鏡と原子間力顕微鏡を組み合わせた新しい原子操作の技術は,ナノテクノロジーの可能性をさらに広げるものだ.シリコン元素を主成分とする小石を手で並べていた原始時代から,シリコン微細加工技術で繁栄を極めた近代を経て,これからはシリコン原子を一つ一つ動かす時代がやってくるかもしれない.(著者抄録)
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分類 (1件):
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顕微鏡法 

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